ラベル W.シェイクスピア『ソネット集』No. 031 - 060 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2019/07/28

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 56

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第56歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は恋情と倦怠の対立を描いた一篇です。詩人はまず、何度満たされても勢いの衰えない食欲を引き合いに出し、恋心を奮い立たせようとします。その後は、会えない空白こそが会えるときの喜びを大きくすることが比喩とともに語られています。海に分かたれた恋人たちという発想については、へーローとレアンドロスの物語以外にも原典になるものがあったのか気になるところです。

【翻訳】
甘い恋心よ、奮い立て。その切れ味が
食欲より鈍いなどと言われないように。
食欲は今日の餌で満たされたとしても
明日には前と同じ勢いで鋭くなるのだ。
恋心よ、お前もそうあれ。たとえ今日
飢えた瞳が満腹になって瞼を閉じても
明日また目を開いてくれ、愛の活力を
果ての見えない倦怠で殺さないでくれ。
この切ない空白の時間は海に似ている。
結ばれたばかりの二人が両岸に分かれ
日々お互いの岸辺を行き来するならば
恋人との再会により景色は美しくなる。
冬とも言えるこの空白は満ちる不安で
夏の到来を三倍待ち遠しく尊くさせる。

【原文】(表記は現代英語)
Sweet love, renew thy force; be it not said
Thy edge should blunter be than appetite,
Which but to-day by feeding is allayed,
To-morrow sharpened in his former might:
So, love, be thou, although to-day thou fill
Thy hungry eyes, even till they wink with fulness,
To-morrow see again, and do not kill
The spirit of love, with a perpetual dulness.
Let this sad interim like the ocean be
Which parts the shore, where two contracted new
Come daily to the banks, that when they see
Return of love, more blest may be the view;
   As call it winter, which being full of care,
   Makes summer's welcome, thrice more wished, more rare.

2019/07/17

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 55

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第55歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は、詩人のソネットを王侯たちの記念碑と競わせる一篇です。詩人は自分の詩が彫像や石碑を超えられない出来だと述べたうえで、それでも詩の中に描かれた青年自身の価値によって、青年の美しさは世の終わりまで伝わるだろうと語ります。後半には終末論を指す言葉が使われており、青年の生が三つの層(肉体の中での短い生、詩の中での長い生、神の国の中での永遠の生)でイメージされるのがなかなか面白いです。

【翻訳】
大理石や黄金の記念碑に残されている
王侯はこの力強い韻律よりも長生きだ。
ただ、その内容となる君の方が眩しい、
下品な時に汚されたままの石碑よりも。
消耗ばかりする戦乱は彫像を打ち壊し
騒乱は石工の作品を根こそぎにするが
マルスの剣も戦乱の猛火も燃やせない、
君の思い出を生き生きと伝える記録を。
死に抗い、忘却を誘う全ての敵に抗い
君は進むのだ。君への賛美の居場所は
後世の全ての人々の眼差しの中にある、
この世が潰えて終末の定めに至るまで。
つまり、君は審判に起こされる日まで
この詩に住まい、恋する瞳に宿るのだ。

【原文】(表記は現代英語)
Not marble, nor the gilded monuments
Of princes, shall outlive this powerful rhyme;
But you shall shine more bright in these contents
Than unswept stone, besmear'd with sluttish time.
When wasteful war shall statues overturn,
And broils root out the work of masonry,
Nor Mars his sword, nor war's quick fire shall burn
The living record of your memory.
'Gainst death, and all oblivious enmity
Shall you pace forth; your praise shall still find room
Even in the eyes of all posterity
That wear this world out to the ending doom.
   So, till the judgment that yourself arise,
   You live in this, and dwell in lovers' eyes.

2019/07/11

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 54

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第54歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩では序盤のソネットと同じイメージとテーマが復活しており、薔薇の姿・香り・蒸留液を青年の姿・真実・詩に対応させながら、美しい青春を詩で保存するというテーマが歌われています。この詩はほとんどの行を薔薇のイメージに割いているため、このテーマを扱ったものの中でも特に統一性があり、その連想に具体的な深みが与えられている一本になっていると思います。

【翻訳】
ああ!美しい姿も美しさを増すだろう
真実が芳しい装飾を添えてくれるなら。
麗しい姿の薔薇もさらに麗しく感じる
芳しい香りがその奥に生きているなら。
野薔薇も隅々まで深い色に染まるのは
香りながら色づく薔薇と変わりはなく
棘を纏い、艶かしく戯れるのも同じだ、
夏の息吹に蕾の仮面を外した頃だけは。
しかし、容姿だけが取り柄の野薔薇は
求愛されずに生き、尊敬されずに枯れ
一人で死ぬ。芳しい薔薇の方は違って
芳しい死から殊に芳しい香水が出来る。
君も同じだ。君の美しく素敵な青春が
凋むとき、僕の詩は真実を蒸留しよう。

【原文】(表記は現代英語)
O! how much more doth beauty beauteous seem
By that sweet ornament which truth doth give.
The rose looks fair, but fairer we it deem
For that sweet odour, which doth in it live.
The canker blooms have full as deep a dye
As the perfumed tincture of the roses,
Hang on such thorns, and play as wantonly
When summer's breath their masked buds discloses:
But, for their virtue only is their show,
They live unwoo'd, and unrespected fade;
Die to themselves. Sweet roses do not so;
Of their sweet deaths are sweetest odours made:
   And so of you, beauteous and lovely youth,
   When that shall vade, my verse distills your truth.

2019/07/10

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 53

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第53歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は青年と世の美しいものをそれぞれ実体(substance)と影(shadow)とみなすプラトニックなイメージで貫かれた一本です。アドニスやヘレンといった神話上の美貌が青年の模倣となり、世界の全てが青年から魅力を借りてきているという主張は、まさに青年を美のイデアのように扱うものです。一方で、「変わらない心」(constant heart)というのは一種の掛け言葉になっており、イデアのように変化しない美しい存在として青年を描くとともに、詩人に対する青年の誠実さへの期待も表れています。

【翻訳】
君の実体は何だろう、それは君を作り
君とは無縁の影を何百万も従えている。
誰であれ一人一つの影を持っているが
君は一人で全ての影を貸し出している。
アドニスを描くとしても、その絵姿は
君を粗末に模倣したものになるだろう。
ヘレンの頬に美容術を尽くしてみると
ギリシアの衣装で描き直した君になる。
一年の中から春や実りの季節を語れば
一方は君の美しさの影を湛えているし
他方も君の豊かさの現れとなっている。
僕たちは見事な姿の奥に君を知るのだ。
優美な外面は全て君からの借り物だが
君の変わらない心を持つものはいない。

【原文】(表記は現代英語)
What is your substance, whereof are you made,
That millions of strange shadows on you tend?
Since every one hath, every one, one shade,
And you but one, can every shadow lend.
Describe Adonis, and the counterfeit
Is poorly imitated after you;
On Helen's cheek all art of beauty set,
And you in Grecian tires are painted new: 
Speak of the spring, and foison of the year,
The one doth shadow of your beauty show,
The other as your bounty doth appear;
And you in every blessed shape we know.
   In all external grace you have some part,
   But you like none, none you, for constant heart.

2019/07/08

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 52

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第52歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は青年と会えない時間こそが青年と一緒にいる時間を特別なものとするという希少性の魔力を歌っています。したがって、青年との別離と邂逅はそれぞれ希望と歓喜を生み出すのですが、その根本にあるのは結局その青年の価値なのだというオチになっています。ちなみに、祝祭の日への言及を宗教改革で消えたカトリック文化へのノスタルジーとみる解釈もあり、興味深いです。

【翻訳】
僕は富豪のように、自分の幸せな鍵で
施錠された甘美な宝箱を開けられるが
富豪はその宝を四六時中眺めはしない、
稀な喜びの持つ鋭い刃先が鈍るからだ。
祝祭の日が荘厳で貴重な日となるのも
長い一年の中で稀にしか来ないからで
採れる場所の少ない原石が高価になり
一級の宝石が首飾りになるのと同じだ。
君が傍らにいる時間は宝石箱のように
また、衣装の隠れた衣装部屋のように
特別な一瞬を特別に幸せなものとする、
閉ざされた魅力を瑞々しく花開かせて。
幸いなる人よ、君の真価がくれるのだ
君を得る歓喜と君がいない間の希望を。

【原文】(表記は現代英語)
So am I as the rich, whose blessed key,
Can bring him to his sweet up-locked treasure,
The which he will not every hour survey,
For blunting the fine point of seldom pleasure.
Therefore are feasts so solemn and so rare,
Since, seldom coming in the long year set,
Like stones of worth they thinly placed are,
Or captain jewels in the carcanet.
So is the time that keeps you as my chest,
Or as the wardrobe which the robe doth hide,
To make some special instant special-blest,
By new unfolding his imprisoned pride.
   Blessed are you whose worthiness gives scope,
   Being had, to triumph, being lacked, to hope.

2019/07/07

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 51

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第51歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は一つ前の第50歌と連作になっている一篇で、馬に乗って青年から遠ざかる旅路を歌っています。前回は馬を傷つけることで自分を傷つけるという内容でしたが、今回は馬と和解しています。青年からすぐに離れる必要はないとか、心の飛ぶ速さに比べればどんな馬も遅く見えるといった理屈をつけて馬を赦した詩人は、馬を往路だけで解放すると宣言します。「馬で早く帰った方が良い」という思慮も忘れて感極まっている詩人の様子はどこか微笑ましくもあります。

【翻訳】
そこで僕の愛は許すのだ、遅く歩いて
君を背に急ぐ僕に抗う鈍重な運び手を。
君の居場所から彼方へとなぜ走るのか。
伝馬の速さが必要なのは帰り道だけだ。
ああ!哀れな獣も言い訳しようがない
最高速度でも遅く見えるのだとしたら。
僕はたとえ風に跨って拍車をかけても
速く飛ぶ翼に動きさえ感じないだろう。
僕の願いに追いつける馬はいないのだ。
(完全無欠の愛からなる)願いだけは
重い肉体も持たずに猛り走っては嘶く。
しかし、愛は愛ゆえにこの駄馬を許す――
君から離れるのを故意に遅らせたのだ。
君への帰路では僕が走り、馬は放そう。

【原文】(表記は現代英語)
Thus can my love excuse the slow offence
Of my dull bearer when from thee I speed:
From where thou art why should I haste me thence?
Till I return, of posting is no need.
O! what excuse will my poor beast then find,
When swift extremity can seem but slow?
Then should I spur, though mounted on the wind,
In winged speed no motion shall I know,
Then can no horse with my desire keep pace.
Therefore desire, (of perfect'st love being made)
Shall neigh, no dull flesh, in his fiery race;
But love, for love, thus shall excuse my jade-
   Since from thee going, he went wilful-slow,
   Towards thee I'll run, and give him leave to go.

2019/06/23

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 50

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第50歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は次の第51歌と連作になっている一篇で、馬に乗って青年から遠ざかる旅路を歌っています。詩人は青年から離れることを厭いながらも無理に馬を駆り立てますが、馬の苦し気な声と鈍い足取りは詩人を突き刺し、自分の本当の望みを気づかせることになります。

【翻訳】
どれくらい足の重い旅路となるだろう、
もしも僕の向かうこの旅の目的地から
所々での休息や休憩が入れ知恵をされ
「友は何マイルも後ろだ」と囁くなら!
僕を乗せた獣も僕の苦悩に呻きながら
僕の内なる重荷をとぼとぼ運んでいく。 
この不幸者は本能で知っているようだ、
君から速く離れると僕が嫌がることを。
拍車を血に濡らしても駆り立てられず
怒りに任せてその皮膚を刺し貫くたび
この獣は重々しく呻き声を返すのだが
その声は脇腹の拍車より鋭く僕を刺す。
その呻き声に僕は気づいてしまうのだ、
喜びに背を向け悲しみを目指す自分に。

【原文】(表記は現代英語)
How heavy do I journey on the way,
When what I seek, my weary travel's end,
Doth teach that ease and that repose to say,
'Thus far the miles are measured from thy friend!'
The beast that bears me, tired with my woe,
Plods dully on, to bear that weight in me,
As if by some instinct the wretch did know
His rider lov'd not speed being made from thee.
The bloody spur cannot provoke him on,
That sometimes anger thrusts into his hide,
Which heavily he answers with a groan,
More sharp to me than spurring to his side;
   For that same groan doth put this in my mind,
   My grief lies onward, and my joy behind.

2019/06/16

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 49

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第49歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は青年に見限られる将来を見据えた一篇で、whenの繰り返しが印象的な作品です。そうした将来を見据えてどうするかというと、詩人はあらかじめ「自分は無価値であり、君は僕を捨てて当然だ」と青年の心変わりを自虐的に弁護するつもりでいるようです。ちなみに、この詩には、お馴染みの会計的イメージや法廷的イメージが用いられています。

【翻訳】
もし来るものなら、その時に備えよう
僕の欠点に曇る君の表情が見える時に、
君の愛がその総資産の計算を済ませて
忠告者の見識を得た監査を求める時に、
君が赤の他人かのように僕とすれ違い
その瞳の太陽で挨拶をしなくなる時に、
愛が心を改めて愛ではないものとなり
尤もな理由から醒めきってしまう時に、
そうした時に備え、ここで籠城しよう、
僕自身の値打ちについての知識の中で。
自分に不利になるようにこの手を挙げ
君の側の法的根拠を弁護するとしよう。
君は卑しい僕を法の力に委ねるべきだ、
僕が愛される根拠を提出できない限り。

【原文】(表記は現代英語)
Against that time, if ever that time come,
When I shall see thee frown on my defects,
When as thy love hath cast his utmost sum,
Called to that audit by advis'd respects;
Against that time when thou shalt strangely pass,
And scarcely greet me with that sun, thine eye,
When love, converted from the thing it was,
Shall reasons find of settled gravity;
Against that time do I ensconce me here,
Within the knowledge of mine own desert,
And this my hand, against my self uprear,
To guard the lawful reasons on thy part: 
   To leave poor me thou hast the strength of laws,
   Since why to love I can allege no cause.

2019/05/27

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 48

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第48歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は愛する青年を盗まれたくないという心情を歌った一篇です。宝石は錠をつけた宝石箱で守ることができますが、宝石以上に尊い青年はそうすることができません。そこで詩人は自分の心こそが安全に青年を隠せる収納ケースだと考えるのですが、それでも盗まれないか心配になるほど青年は美しい、とさらに捻りを加えています。

【翻訳】
遠出のときはどれほど警戒したことか、
がらくたにさえ堅実な錠前を取り付け
僕が使うまで使えないようにしてきた、
不正な手から守る堅実で確かな収納で!
僕の宝石をがらくたにしてしまう君は
最高の喜びにして今は最大の悲しみだ。
最も貴い君が唯一つの心配の種なのだ、
下らない盗人たちの狩り場にいる君が。
君を入れて施錠できる小箱が一つある。
それは、君がいないのにいると感じる
優しく閉ざされた僕の胸のことであり
そこは君が好きに出入りできる場所だ。
しかし、その君も盗まれないか心配だ、
誠実な人も盗みたくなる貴重品だから。

【原文】(表記は現代英語)
How careful was I when I took my way,
Each trifle under truest bars to thrust,
That to my use it might unused stay
From hands of falsehood, in sure wards of trust!
But thou, to whom my jewels trifles are,
Most worthy comfort, now my greatest grief,
Thou best of dearest, and mine only care,
Art left the prey of every vulgar thief.
Thee have I not locked up in any chest,
Save where thou art not, though I feel thou art,
Within the gentle closure of my breast,
From whence at pleasure thou mayst come and part;
     And even thence thou wilt be stol'n I fear,
     For truth proves thievish for a prize so dear.

2019/05/13

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 47

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第47歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は第46歌の続きになっており、瞳と心の和解を描いています。瞳は姿を受け取り、心は愛を受け取るといっても、それぞれに苦しい空白の時は訪れます。そこで、青年が目の前におらず、青年と愛の時間を過ごすことのできない間、瞳と心は青年の美貌の記憶と青年との愛の想像とを交換して互いに慰め合うという幸せな同盟関係が生まれるのです。また、ここで歓待のイメージ(feast; banquet)が使われているのも興味深いです。

【翻訳】
僕の瞳と僕の心の間に同盟が組まれて
今ではお互いに良くするようになった。
瞳が君を一目見たいと飢えている間に
心は恋の溜め息で息を詰まらせている。
そこで瞳は愛する人の肖像で宴を開き
絵に描いた晩餐を心に振る舞ってやる。
すると、別の時には心が瞳を客として
愛の夢想の一部を分け与えるのである。
だから、君の肖像か僕の恋心があれば
君は遠くにいても僕の目の前に現れる。
君は僕の想いよりも先へ進めないから
僕は想いと、想いは君とずっと一緒だ。
想いが眠っても、視界に映る君の絵が
心を起こし、心と瞳を喜ばせるだろう。

【原文】(表記は現代英語)
Betwixt mine eye and heart a league is took,
And each doth good turns now unto the other:
When that mine eye is famish'd for a look,
Or heart in love with sighs himself doth smother,
With my love's picture then my eye doth feast,
And to the painted banquet bids my heart;
Another time mine eye is my heart's guest,
And in his thoughts of love doth share a part:
So, either by thy picture or my love,
Thy self away, art present still with me;
For thou not farther than my thoughts canst move,
And I am still with them, and they with thee;
   Or, if they sleep, thy picture in my sight
   Awakes my heart, to heart's and eyes' delight.

2019/05/12

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 46

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第46歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は瞳と心による青年の取り合いを法廷のイメージで描いた一篇です。瞳がなければ青年の美しさは見えず、心がなければ青年の愛は受け取れないため、陪審員となった「思考たち」(thoughts)は青年の外見を瞳に、青年の内面を心に与えるという判決を下します。一見すると、これは瞳と心の性質に応じた公平な判決にも思えます。しかし、陪審員たちは(何しろ思考なので)心に間借りしている(tenants)という表現もあり、これは心に贔屓した判決だという仄めかしとも読めます。

【翻訳】
僕の瞳と心が命懸けの争いをしている、
君の姿という戦利品の取り分を巡って。
瞳は心が君の容姿を眺めるのを認めず
心は瞳が自由に眺める権利を認めない。
心は君が自分の中にいると申し立てる、
水晶の瞳の見透かせない部屋の中だと。
すると、被告の瞳は申し立てを否認し
自分の中にこそ君の美貌があると言う。
この権利争いの裁定のために集まった
思考の陪審員団は心に間借りする身だ。
そして、この思考たちの評決によって
澄んだ瞳と貴い心の分け前が定まった。
曰く、瞳は君の外面の姿を取り分とし、
心は君の内心の愛への権利を得ること。

【原文】(表記は現代英語)
Mine eye and heart are at a mortal war,
How to divide the conquest of thy sight;
Mine eye my heart thy picture's sight would bar,
My heart mine eye the freedom of that right.
My heart doth plead that thou in him dost lie,
A closet never pierced with crystal eyes,
But the defendant doth that plea deny,
And says in him thy fair appearance lies.
To 'cide this title is impannelled
A quest of thoughts, all tenants to the heart;
And by their verdict is determined
The clear eye's moiety, and the dear heart's part:
     As thus: mine eye's due is thine outward part,
     And my heart's right, thine inward love of heart.

2019/05/05

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 45

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第45歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は、("the other"と始まるように)形式的にも一つ前の第45歌の続編になっています。思いは軽やかで乾いた元素として青年の元へ飛び去り、青年のことを報告しに戻ってきます。ここは例えられている事態が掴みにくいですが、ここで詩人は「青年のことを考えていない暗い時間」を「魂が青年の許にいる時間」と解釈しているのかもしれません。

【翻訳】
一方で、軽やかな空気と清らかな火は
僕がどこにいても君の側にいる元素だ。
空気は僕の思い、火は僕の望みであり
俊足で移動し、いるかと思えばいない。
この速い方の二つの元素がここを発ち
君への愛を伝える優しい使者となれば
四元素からなる僕の命は二元素に減り
憂鬱室に圧迫されなが死へ沈んでいく。
生命の構成が元通りに回復されるのは
君のところから帰る俊足の使者たちが
今にでも戻ってきて、自分で確かめた
君の麗しい健康を僕に聞かせるときだ。
嬉しい知らせだが、喜びはすぐに止み
再び使者を送ると、真っ先に辛くなる。

【原文】(表記は現代英語)
The other two, slight air and purging fire,
Are both with thee, wherever I abide;
The first my thought, the other my desire,
These present-absent with swift motion slide.
For when these quicker elements are gone
In tender embassy of love to thee,
My life, being made of four, with two alone
Sinks down to death, oppressed with melancholy;
Until life's composition be recured
By those swift messengers return'd from thee,
Who even but now come back again, assured
Of thy fair health, recounting it to me:
   This told, I joy; but then no longer glad,
   I send them back again and straight grow sad.

2019/05/03

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 44

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第44歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は、自然の構成要素を火・空気・水・土の四つと考える四元素説を取り入れながら、青年の元へ飛んで行ける想い(火・空気)と物理的に運動が制約されている肉体(水・土)を対比する一篇です。「自分が思いのように身軽ではないという思いが辛い」(thought kills me that I am not thought))という一節からは、この主題自体と戯れる詩人の機知が伺えます。

【翻訳】
肉体という鈍い実体が思いと同じなら
意地悪な距離も僕の行く手を阻めない。 
それなら僕は空間を無視して向かおう、
遥か遠くの果てから君のいるところへ。
問題はなくなるのだ、僕の立つ場所が
たとえ君から最も遠く離れた大地でも。
身軽な思いは海も陸も飛び越えられる、
彼のいる場所を思うだけでたちまちに。
だが!僕が思いではないと思うと辛い。
何マイルもの遠方にいる君を追うなど
土と水が多過ぎる僕にはできないから
僕はしぶしぶ時の暇潰しに随行するが
こののろまな元素たちから貰えるのは
重い涙という二人分の悲哀の紋章だけ。

【原文】(表記は現代英語)
If the dull substance of my flesh were thought,
Injurious distance should not stop my way;
For then despite of space I would be brought,
From limits far remote, where thou dost stay.
No matter then although my foot did stand
Upon the farthest earth removed from thee;
For nimble thought can jump both sea and land
As soon as think the place where he would be.
But ah! thought kills me that I am not thought,
To leap large lengths of miles when thou art gone,
But that, so much of earth and water wrought,
I must attend time's leisure with my moan,
   Receiving nought by elements so slow
   But heavy tears, badges of either's woe.

2019/05/01

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 43

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第43歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は、形相と影というプラトニックなイメージを使いながら、夜に浮かぶ青年の姿を称える一篇です。君に会えない昼は夜であり、君を思う夜は昼であるなら、君のいる昼はどんなことになるだろう、という視点がとても良いです。

【翻訳】
僕の瞳は閉じたときにこそよく見える、
日中は物事を散漫に眺めるだけだから。
僕が眠れば、瞳は夢の中で君を見つめ、
輝く暗闇となって暗い視界の中で輝く。
君の影でさえ影たちを輝かせるのなら
君の影の形相は大変な絶景を形作って
明るい昼をさらに明るく照らすはずだ。
影でさえ見えない瞳に眩しいのだから!
僕の瞳は大変に祝福されることになる、
もし生き生きとした昼に君を見たなら。
死んだ夜に見る君の麗しい残像でさえ
深く眠った視力のない瞳に留まるのだ!
君を見かけない昼が夜に見えるように
君を夢に見る夜は輝く昼に見えてくる。

【原文】(表記は現代英語)
When most I wink, then do mine eyes best see,
For all the day they view things unrespected;
But when I sleep, in dreams they look on thee,
And darkly bright, are bright in dark directed.
Then thou, whose shadow shadows doth make bright,
How would thy shadow's form form happy show
To the clear day with thy much clearer light,
When to unseeing eyes thy shade shines so!
How would, I say, mine eyes be blessed made
By looking on thee in the living day,
When in dead night thy fair imperfect shade
Through heavy sleep on sightless eyes doth stay!
   All days are nights to see till I see thee,
   And nights bright days when dreams do show thee me.

2019/04/30

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 42

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第42歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩も引き続いて「詩人の恋人を奪った青年」というテーマを歌っています。青年を失い、恋人を失った詩人は「二人は自分の愛したものを愛したために過ちを犯した」と解釈します。詩人はそうして自分を責めながら、「自分と青年が一体であるのだから、自分は恋人とまだ愛し合っているのだ」という詭弁で心を慰めるのです。

【翻訳】
君が彼女を選んでも悲しくはならない、
僕は彼女を大切に愛したと言えるから。
彼女が君を選んだことにこそ涙が出る、
愛の喪失にはより迫るものがあるから。
恋に落ちた罪人たちよ、汝らを赦そう。
君は僕が愛するのを見て彼女を愛した。
彼女が僕を傷つけたことも僕のせいだ、
彼女は僕の友にならと身を許したのだ。
僕の失った君は僕の恋人のものとなり、
僕の失った彼女は僕の友と出会うのだ。
二人が出会えば、僕はその二人を失い
二人は僕のせいで僕を十字架にかける。
しかし、幸いにも友と僕は一体だから、
甘い詭弁よ!彼女は僕一人に恋をする。

【原文】(表記は現代英語)
That thou hast her it is not all my grief,
And yet it may be said I loved her dearly;
That she hath thee is of my wailing chief,
A loss in love that touches me more nearly.
Loving offenders thus I will excuse ye:
Thou dost love her, because thou know'st I love her;
And for my sake even so doth she abuse me,
Suffering my friend for my sake to approve her.
If I lose thee, my loss is my love's gain,
And losing her, my friend hath found that loss;
Both find each other, and I lose both twain,
And both for my sake lay on me this cross:
   But here's the joy; my friend and I are one;
   Sweet flattery! then she loves but me alone.

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 41

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第41歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は前回と同じく「詩人の恋人を奪った青年」というテーマを別の視点から歌ったものです。詩人は、青年が誘惑されて不義を犯すのは青年の美しさと優しさのためだが、そのままでは詩人の恋人の不義と青年自身の不義の責任を負うことになるのだと優しく諭します。こうしてみると、恋人がいながら青年に夢中な詩人自身のモラルは不問なんでしょうか。笑

【翻訳】
自由の身は他愛のない過ちを犯させる、
僕が君の心の中にいないときがあると。
それも君の美しさや若さによく似合う。
誘惑も君の後を追いかけ続けるはずだ。
君は奥ゆかしいから落とされてしまい
君は美しいから攻められてしまうのだ。
女から生まれた息子なら、女の求愛を
自分から惚れるまで断るものだろうか。
いやはや!僕の居場所から手を引いて
君の美しさと迷える若さを叱ってくれ。
その二つに耽るなら、君はその果てに
二重の信義を裏切ることになるだろう、
君の美しさに誘惑された彼女の不義と
君の美しさで僕を欺いた君の不義とで。

【原文】(表記は現代英語)
Those pretty wrongs that liberty commits,
When I am sometime absent from thy heart,
Thy beauty, and thy years full well befits,
For still temptation follows where thou art.
Gentle thou art, and therefore to be won,
Beauteous thou art, therefore to be assailed;
And when a woman woos, what woman's son
Will sourly leave her till he have prevailed?
Ay me! but yet thou mightst my seat forbear,
And chide thy beauty and thy straying youth,
Who lead thee in their riot even there
Where thou art forced to break a twofold truth:
     Hers by thy beauty tempting her to thee,
     Thine by thy beauty being false to me.