2018/05/18

D・ロセッティ『命の棲む家』「恋という月」

第37歌 恋という月(Love-moon)

「遠い月日に覆われたあの死者の顔は、
 あの頃は命の全てだったあの人の顔は、
 今では思い出の波にすら宿っていない
君の魂を涙の水飛沫で濡らす波にすらーー
君は、彼女の瞳を見つめているうちに、
 今にも心を喜ばせながら見て取るのだ、
 恋に媚薬入りの目薬を注がれた眼球で、
彼女の瞳が映す埋もれた誓いの面影を。」

「違うのです、情深き愛、愛深き情よ!
 ご存知のはずです、私はこの双子から
あなたの呼び鈴の声を二度聴きました。
 ご主人様、死は露わにしていませんか、
高ぶった心変わりが称えているものを、
私の恋する魂を照らす、恋という月を。」

Dante Rossetti. "Life-in-love"
in The House of Life (1898).

◯翻訳メモ
・恋人の死後に新しい恋に落ちた人物をめぐるやり取り。
 君は昔の恋人に重ねて他人を愛するのか、と恋は聞く。
 私は答える、「いいえ、この恋は未練ではありません。
 月の満ち欠けのように恋自体が終わらないのです」と。
 (相変わらず難しい詩人だが、このように取ってみた。)
・calminant changesは高ぶる恋と天高い月をかけたか。
・euphrasyは小米草のことであり、eyebrightが別名。
 これはその名の通り目薬に使われていた花だそうだ。
 和名で言っても通じないので、ただ「目薬」とした。