2019/07/17

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 55

【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第55歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は、詩人のソネットを王侯たちの記念碑と競わせる一篇です。詩人は自分の詩が彫像や石碑を超えられない出来だと述べたうえで、それでも詩の中に描かれた青年自身の価値によって、青年の美しさは世の終わりまで伝わるだろうと語ります。後半には終末論を指す言葉が使われており、青年の生が三つの層(肉体の中での短い生、詩の中での長い生、神の国の中での永遠の生)でイメージされるのがなかなか面白いです。

【翻訳】
大理石や黄金の記念碑に残されている
王侯はこの力強い韻律よりも長生きだ。
ただ、その内容となる君の方が眩しい、
下品な時に汚されたままの石碑よりも。
消耗ばかりする戦乱は彫像を打ち壊し
騒乱は石工の作品を根こそぎにするが
マルスの剣も戦乱の猛火も燃やせない、
君の思い出を生き生きと伝える記録を。
死に抗い、忘却を誘う全ての敵に抗い
君は進むのだ。君への賛美の居場所は
後世の全ての人々の眼差しの中にある、
この世が潰えて終末の定めに至るまで。
つまり、君は審判に起こされる日まで
この詩に住まい、恋する瞳に宿るのだ。

【原文】(表記は現代英語)
Not marble, nor the gilded monuments
Of princes, shall outlive this powerful rhyme;
But you shall shine more bright in these contents
Than unswept stone, besmear'd with sluttish time.
When wasteful war shall statues overturn,
And broils root out the work of masonry,
Nor Mars his sword, nor war's quick fire shall burn
The living record of your memory.
'Gainst death, and all oblivious enmity
Shall you pace forth; your praise shall still find room
Even in the eyes of all posterity
That wear this world out to the ending doom.
   So, till the judgment that yourself arise,
   You live in this, and dwell in lovers' eyes.