2017/05/16

シェイクスピア『ソネット集』 第98歌

僕が君から離れたのは春のことだった
目一杯着飾って見事に彩られた四月は
あらゆるものに青春の気配を振りまき
陰鬱なサトゥルヌスも笑い踊っていた。

だが吟遊する鳥たちや甘い香りをなす
色合いや香りの異なる花たちがいても
僕は夏の物語を聞かせはしなかったし
見事な花園で育った花も摘まなかった。

僕は純白の百合に感動することもなく
深紅の薔薇を称賛することもなかった。
甘美で見目麗しい百合や薔薇を通して
描かれている君こそ全ての雛型なのだ。

とはいえ冬は長くて君は遠いと思って
僕は君の影たちとも戯れることにした。