【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。
【詩について】
前回と同じく、今回の第52歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は青年と会えない時間こそが青年と一緒にいる時間を特別なものとするという希少性の魔力を歌っています。したがって、青年との別離と邂逅はそれぞれ希望と歓喜を生み出すのですが、その根本にあるのは結局その青年の価値なのだというオチになっています。ちなみに、祝祭の日への言及を宗教改革で消えたカトリック文化へのノスタルジーとみる解釈もあり、興味深いです。
【翻訳】
僕は富豪のように、自分の幸せな鍵で
施錠された甘美な宝箱を開けられるが
富豪はその宝を四六時中眺めはしない、
稀な喜びの持つ鋭い刃先が鈍るからだ。
祝祭の日が荘厳で貴重な日となるのも
長い一年の中で稀にしか来ないからで
採れる場所の少ない原石が高価になり
一級の宝石が首飾りになるのと同じだ。
君が傍らにいる時間は宝石箱のように
また、衣装の隠れた衣装部屋のように
特別な一瞬を特別に幸せなものとする、
閉ざされた魅力を瑞々しく花開かせて。
幸いなる人よ、君の真価がくれるのだ
君を得る歓喜と君がいない間の希望を。
【原文】(表記は現代英語)
So am I as the rich, whose blessed key,
Can bring him to his sweet up-locked treasure,
The which he will not every hour survey,
For blunting the fine point of seldom pleasure.
Therefore are feasts so solemn and so rare,
Since, seldom coming in the long year set,
Like stones of worth they thinly placed are,
Or captain jewels in the carcanet.
So is the time that keeps you as my chest,
Or as the wardrobe which the robe doth hide,
To make some special instant special-blest,
By new unfolding his imprisoned pride.
Blessed are you whose worthiness gives scope,
Being had, to triumph, being lacked, to hope.