2019/06/23

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 50

【記事について】
W.シェイクスピア『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第50歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は次の第51歌と連作になっている一篇で、馬に乗って青年から遠ざかる旅路を歌っています。詩人は青年から離れることを厭いながらも無理に馬を駆り立てますが、馬の苦し気な声と鈍い足取りは詩人を突き刺し、自分の本当の望みを気づかせることになります。

【翻訳】
どれくらい足の重い旅路となるだろう、
もしも僕の向かうこの旅の目的地から
所々での休息や休憩が入れ知恵をされ
「友は何マイルも後ろだ」と囁くなら!
僕を乗せた獣も僕の苦悩に呻きながら
僕の内なる重荷をとぼとぼ運んでいく。 
この不幸者は本能で知っているようだ、
君から速く離れると僕が嫌がることを。
拍車を血に濡らしても駆り立てられず
怒りに任せてその皮膚を刺し貫くたび
この獣は重々しく呻き声を返すのだが
その声は脇腹の拍車より鋭く僕を刺す。
その呻き声に僕は気づいてしまうのだ、
喜びに背を向け悲しみを目指す自分に。

【原文】(表記は現代英語)
How heavy do I journey on the way,
When what I seek, my weary travel's end,
Doth teach that ease and that repose to say,
'Thus far the miles are measured from thy friend!'
The beast that bears me, tired with my woe,
Plods dully on, to bear that weight in me,
As if by some instinct the wretch did know
His rider lov'd not speed being made from thee.
The bloody spur cannot provoke him on,
That sometimes anger thrusts into his hide,
Which heavily he answers with a groan,
More sharp to me than spurring to his side;
   For that same groan doth put this in my mind,
   My grief lies onward, and my joy behind.