2019/07/01

映画感想:C.シャブロル『美しきセルジュ』(1958年、ヌーヴェル・ヴァーグ)

【記事について】
映画を見た感想を書いていきます。ネタバレを含むので注意してください。

【映画について】
・概要
クロード・シャブロル監督『美しきセルジュ』(Le Beau Serge, 1958)
ヌーヴェル・ヴァーグ最初の長編映画に当たる作品。
・おすすめ度
★★★★☆
希望と絶望の境界に立たされた友情とヒューマニズムの結末に心を打たれる一篇。
・あらすじ
療養のためにパリから故郷の村へ帰省したフランソワ(ジャン=クロード・ブリアリ)。病気療養のため、パリから小さな町に帰省したフランソワ。彼はそこで秀才だった友人セルジュ(ジェラール・ブラン)の落ちぶれた姿を見る。セルジュは建築家を目指して奨学金まで得ていたが、恋人を妊娠させてしまい進路を諦めた上、障害を抱えた子供が生まれたことから絶望し、義父と共に飲んだくれの日々を送っていた。フランソワは何とかセルジュを立ち直らせようとするが……。

【ピックアップ① 端役の内輪ネタ】

左端のラ・トゥリュフを演じているのはシャブロル監督自身。「遺産相続したマヌケ」と言われているのは、この映画が監督の妻が相続した遺産を元手に撮られていることを背景としているのだろう。完全に内輪ネタである。そして、左から二番目のジャック・リヴェットは助監督が演じているのだけれど、役名の「ジャック・リヴェット」は『カイユ・デュ・シネマ』誌の編集者の名前である。やはり、完全に内輪ネタである。

【ピックアップ② 今回の日常風景】
今回のぐっと来た日常風景は、鍋にミルクとコーヒーを入れて注ぐシーン。手動式のガソリンスタンドのシーンもなかなか風情があったけれど、こちらの方が絵が良かったので採用。

 【ピックアップ③ 美しきセルジュ】
言葉ばかりの司祭を批判しつつも、人間の計画を超えた出産という出来事がクライマックスになっている辺りのバランス感覚が結構好き。「美しきフランソワ」じゃなくて「美しきセルジュ」というタイトルになっているところがまた良い。

【感想メモ】
・ジェラール・ブランの落ちぶれた男の演技が上手すぎる。一人だけ俳優じゃなくて本物の廃人を連れてきたんじゃないかってくらい演技が上手い。何もかも嘲笑ってダメ人間やってるときも、ふと我に返って自分の醜さを嘆くときも、本当にそういう実存を抱えた人間に見えてくる。それから、ラフォン演じるマリーも魅力的な表情や仕草が多い。誘うスピードと誘い方はちょっと大胆で、「この服素敵だね」「自分で作ったの、でも着ない方が素敵よ」というやり取りは笑ってしまった。
・一連の人間関係に対して人間性を問うフランソワに「働いても働いても楽にならない上に逃げ場がないこの場所に理性なんてあるのか」とセルジュが返す場面がかなり胸に訴えるやり取りになっている。その後のセルジュの乱暴を受けても諦めないフランソワの信念の固さも相俟って、二人の愛憎を超えた信頼と友情もしみじみ伝わってくる。

【同じ俳優が出演した他のヌーヴェル・ヴァーグ作品】
・ジェラール・ブラン(セルジュ)
『あこがれ』『いとこ同志』
・ジャン=クロード・ブリアリ(フランソワ)
『死刑台のエレベーター』『いとこ同志』『女は女である』『5時から7時までのクレオ』『クレールの膝』
・ベルナデット・ラフォン(マリー)
『あこがれ』『気のいい女たち』