2017/05/16

シェイクスピア『ソネット集』 第99歌

早春に咲く菫をこんな風に叱りつけた。
甘く香る盗人よ、その香りは盗まれた
僕の恋人の吐息だろう?見事な紫色で
君の柔らかな頬が染められているのも
僕の恋人の静脈の色を使った厚化粧だ。

君の白い手のために百合も有罪となり
マヨラナの蕾も君の髪の香りを盗んだ。
恐る恐る棘の上に立つあの薔薇たちも
恥に赤らんだか絶望で白くなったのだ。

白でも赤でもない薔薇は色を二つ盗み
さらに君の息にも盗みの手を伸ばした。
だがその窃盗のせいか、壮年のうちに
執念深い虫に食われて死んでしまった。

他の花を取り上げても僕にわかるのは
君から盗み出された香りと色合いだけ。