【記事について】
W.シェイクスピアの『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。
【詩について】
前回と同じく、今回の第56歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は恋情と倦怠の対立を描いた一篇です。詩人はまず、何度満たされても勢いの衰えない食欲を引き合いに出し、恋心を奮い立たせようとします。その後は、会えない空白こそが会えるときの喜びを大きくすることが比喩とともに語られています。海に分かたれた恋人たちという発想については、へーローとレアンドロスの物語以外にも原典になるものがあったのか気になるところです。
【翻訳】
甘い恋心よ、奮い立て。その切れ味が
食欲より鈍いなどと言われないように。
食欲は今日の餌で満たされたとしても
明日には前と同じ勢いで鋭くなるのだ。
恋心よ、お前もそうあれ。たとえ今日
飢えた瞳が満腹になって瞼を閉じても
明日また目を開いてくれ、愛の活力を
果ての見えない倦怠で殺さないでくれ。
この切ない空白の時間は海に似ている。
結ばれたばかりの二人が両岸に分かれ
日々お互いの岸辺を行き来するならば
恋人との再会により景色は美しくなる。
冬とも言えるこの空白は満ちる不安で
夏の到来を三倍待ち遠しく尊くさせる。
【原文】(表記は現代英語)
Sweet love, renew thy force; be it not said
Thy edge should blunter be than appetite,
Which but to-day by feeding is allayed,
To-morrow sharpened in his former might:
So, love, be thou, although to-day thou fill
Thy hungry eyes, even till they wink with fulness,
To-morrow see again, and do not kill
The spirit of love, with a perpetual dulness.
Let this sad interim like the ocean be
Which parts the shore, where two contracted new
Come daily to the banks, that when they see
Return of love, more blest may be the view;
As call it winter, which being full of care,
Makes summer's welcome, thrice more wished, more rare.