2019/05/12

新訳 W.シェイクスピア『ソネット集』 No. 46

【記事について】
W.シェイクスピア『ソネット集』に収められた154のソネット(14行の定型詩)を順番に訳していきます。翻訳は今回で3回目になります。

【詩について】
前回と同じく、今回の第46歌は美青年宛のソネット(1~126番)の一つです。この詩は瞳と心による青年の取り合いを法廷のイメージで描いた一篇です。瞳がなければ青年の美しさは見えず、心がなければ青年の愛は受け取れないため、陪審員となった「思考たち」(thoughts)は青年の外見を瞳に、青年の内面を心に与えるという判決を下します。一見すると、これは瞳と心の性質に応じた公平な判決にも思えます。しかし、陪審員たちは(何しろ思考なので)心に間借りしている(tenants)という表現もあり、これは心に贔屓した判決だという仄めかしとも読めます。

【翻訳】
僕の瞳と心が命懸けの争いをしている、
君の姿という戦利品の取り分を巡って。
瞳は心が君の容姿を眺めるのを認めず
心は瞳が自由に眺める権利を認めない。
心は君が自分の中にいると申し立てる、
水晶の瞳の見透かせない部屋の中だと。
すると、被告の瞳は申し立てを否認し
自分の中にこそ君の美貌があると言う。
この権利争いの裁定のために集まった
思考の陪審員団は心に間借りする身だ。
そして、この思考たちの評決によって
澄んだ瞳と貴い心の分け前が定まった。
曰く、瞳は君の外面の姿を取り分とし、
心は君の内心の愛への権利を得ること。

【原文】(表記は現代英語)
Mine eye and heart are at a mortal war,
How to divide the conquest of thy sight;
Mine eye my heart thy picture's sight would bar,
My heart mine eye the freedom of that right.
My heart doth plead that thou in him dost lie,
A closet never pierced with crystal eyes,
But the defendant doth that plea deny,
And says in him thy fair appearance lies.
To 'cide this title is impannelled
A quest of thoughts, all tenants to the heart;
And by their verdict is determined
The clear eye's moiety, and the dear heart's part:
     As thus: mine eye's due is thine outward part,
     And my heart's right, thine inward love of heart.