[About this blog entry]
- Today, Japanese government announced new period-name "Reiwa" (令和; Fair and Gentle). This phrase is derived from Manyoshu, the oldest collection of Japanese poetry (8th century). "Reiwa" is constituted from two Kanji : "Rei" (令) from "fair month" (Rei-getsu; 令月) and "Wa" (和) from "gentle wind" (Fu-wa; 風和). Rei of Rei-getsu means "good, nice, lovely, excellent" and Wa of Fu-Wa means "soft, mild, tender, gentle, relaxed."
- Of course each of "令" and "和" is a polysemic Kanji and has other different meanings in today's use, but I think that neither 令 nor 和 clearly shows them in the original context. Actually, "Rei" in "Reiwa" doesn't mean "order or command" as in "命令" (Mei-Rei; command or direction) but "excellent" as in "令名" (Rei-Mei; fair name or high reputation); and "Wa" in Reiwa conveys a direct and tactile impression of "softness" as in "温和" (On-Wa; genial [climate or character]) rather than an objective and conceptual idea of "harmony or peace" as in "平和" (Hei-Wa; Peace)*.
- For those who want to think about the original meaning and context of "Rei" and "Wa" used for the new period-name, I translated below the original passage from the introduction to "Plum-songs" in Manyoshu. (And I wish the original lyrical sense will survive against some recent political association of words...)
*I'm sure that you can rightly say "soft feeling" and "harmony or peace" are culturally or philosophically connected. In Japanese Bible, for example, Meekness, one of the Christian virtues, is translated to "柔和" (Nyu-Wa; soft and tender) to show his/her peaceful character.
[translation of the original text]
*I underlined and boldfaced the place where "Rei" (fair) and "Wa" (gentle) appear.
In the 13th day of the 1st month of Tempyo 2 [i.e. 13 February, 730 CE], we gathered in the master's [i.e. Otomo Tabito's] house and held a feast. It was in a fair month of the new spring; a mild air came with a gentle wind; plums applied dresser-powder on flowers; and orchids swayed their incense-pouch. What is more, clouds visited the top of a mountain gleaming with dawn and their [i.e. clouds'] veil became pines' umbrella; the hollow places gathered mist and birds lost their way in the covered [i.e. misty] woods. In the garden a young butterfly was dancing and in the sky an old goose was going home. Then, we decided to replace our ceiling and seat with the heaven and the earth, squatted on the bare ground and continued the feast. Each of us left words to chat behind in the room and viewed the distant smoke-like mist without caring of exposed chest [i.e. in a relaxed manner]. Everyone was tolerant, free, cheerful and self-contented. Without literature, how can we describe our sentiments? We know [Old Chinese] poets wrote down some songs on Plum's falling flowers [i.e. Spring songs]. In that respect [i.e. in natural poetic sensibility], is there any difference between the old days and today? Why shouldn't we sing some songs on the plums of the garden? [finis; and a series of plum-songs follows.]
2019/04/01
2017/12/31
A・テニスン『イン・メモリアム』104歌「鳴り響け、猛る鐘よ」
鳴り響け、猛る鐘よ、あの猛る空に、
逃げる雲と凍てつく光に向かって。
今宵、この一年は息絶えるだろう。
鳴り響け、猛る鐘よ、送り出すのだ。
鳴り響け、旧年を払え、新年を招け、
鳴り響け、幸せの鐘よ、雪景色に。
去りゆくこの一年を送り出すのだ。
鳴り響け、偽物を払え、本物を招け。
鳴り響け、心を蝕む悲哀を追い払え、
悲しみの種を振り返ることはない。
鳴り響け、貧富の諍いを追い払え、
鳴り響け、全人類の修繕を招くのだ。
鳴り響け、往生際の悪い主義主張と
古臭い党派争いの数々を追い払え。
鳴り響け、今よりも尊い生き方を、
美しい作法と清らかな律法を迎えよ。
鳴り響け、時代の貧困と不安と罪を、
不信が生み出す冷たさを追い払え。
鳴り響け、私の哀歌など追い払え、
鳴り響け、朗々とした詩人を迎えよ。
鳴り響け、身分や血筋に拘る虚栄と
市民同士の傷つけ合いを追い払え。
鳴り響け、真と義への愛を迎えよ、
鳴り響け、善への普遍の愛を迎えよ。
鳴り響け、姿の老いた醜い病を払え。
鳴り響け、行き詰まる強欲を払え。
鳴り響け、古びた千の戦争を払え。
鳴り響け、千年続く平和を招くのだ。
鳴り響け、勇敢な人を、自由な人を、
今より広い心と優しい手を迎えよ。
鳴り響け、地上の暗闇を追い払え、
鳴り響け、来るべき救い主を迎えよ。
Alfred Tennyson. "Ring Out, Wild Bells."
in In Memoriam (1850).
2017/11/15
"Sentimental Scenes: II. Hometown" by Saisei Muro.
A hometown is what I miss from far away;
and what I sadly sing about.
Even if
I become a shabby foreign beggar,
It still is not where I can return.
Alone in this town at sunset,
I miss my hometown with tears;
I have this heart with me
I have this heart with me
longing to return to the far-off town
longing to return to the far-off town.
Saisei Muro. "Sentimental Scene II."
in Lyrical Songs (1918).
Tags:
English translation
Japanese modern poem
2017/11/12
W・ワーズワース『詩集』「虹」
僕の心は高く舞い上がる
空の虹を見ただけで。
生まれた頃もそうだった
大人になった今もそうだ
年老いてもそうありたい
さもなくば死を!
子供こそ大人の父なのだ
どうか、僕の一日一日が
自然な敬虔に結ばれるように。
・翻訳メモ
音節は8-6-8-8-8-4-8-10。
文字数の比も寄せてみた。
William Wordsworth. "The Rainbow."
("My Heart Leaps Up")
in Poems (1807).
W・B・イェイツ「酒の歌」
ワインは一口から始まり
恋は一目から始まるもの。
それだけが僕らの真実さ
年老いて死ぬその日まで。
僕はグラスを口へと運び
君を見つめて息を漏らす。
William Butler Yeats, "A Drinking Song"
in Responsibilities, and other poems (1916)
2017/11/01
C・ロセッティ『野外劇』「聖人たち」
「聖人たち」
みんなが集まってくる
東から西から
みんなが集まってくる
北から南から
刻一刻と旅立ってくる
蛇や獅子の縄張りから
沼や砂漠から
氷や火炎から。
大から小まで
掌には棕櫚を
唇には賛歌を
道を昇り集まってくる
安息の土地へ
二度と戻ることのない
道筋を昇って。
険しいシオンの山道を
登ってきたぞ
やってきたぞ
数え切れない人群れが。
その賑わいは
無数の蜜蜂の
合唱体となり
色彩に満ちて
芳香に満ちて
隅々まで蜜を
豊かに蓄えた
花咲く樹木へ――。
その高鳴りは
抑え切れない風となり
谷の日陰から
頂上の日向へ――。
その地響きは
大海原となり、力強く
広大に長大に
岸辺へ寄せる。
次から次へと
波に波が重なって迫り
岸に跳ね上がって散る。
(地下水脈で
引き潮が土を削り取る
轟きとは違う)
みんなが集まってくる
東からも西からもくる
北からも南からもくる
聖人が愛し求めてくる
安息を授かる
自分の土地へ
掌には棕櫚を
唇には賛歌を。
Christina Rossetti, "All Saints"
in A Pageant and Other Poems.
2017/10/18
W・シェイクスピア『ソネット集』第一歌 五七七ver.
試しに五七七で十四行訳しました。
いつもの字数揃えにもチャレンジ。
字余りがありますがご容赦下さい。
美しい命よ、増えよと僕らは願い
麗しい薔薇の姿が絶えないように
実も熟し花びらも散る季節の後は
若々しい跡継ぎの芽に記憶を託す。
だが君は自分の輝く目に身を捧げ
燃え上がる光にくべる薪となって
豊作を託された身に飢饉を起こし
無情にも芳しい君の敵へと変わる。
瑞々しい今の君にはこの世を飾り
華やかな春を伝える資格があるが
君という蕾に君の身を埋めるなら
若者よ、その節約は浪費に変わる。
世を思え、君は大食の罪人となる
世の分まで墓場と共に貪るのなら。
2017/08/06
J.メイスフィールド「海にかける情熱」
「海にかける情熱」(Sea Fever)
絶対に海へ帰るぞ、誰もいない海とあの空へ。
俺が欲しいのは大きな帆船と操縦のための星、
あの跳ねる舵輪、風の歌、真っ白な帆の揺れ
海面を覆う薄暗い霧、そして薄明るい朝日だ。
絶対に海へ帰るぞ、あの潮の流れの呼び声が、
無視できない大声がはっきりと聞こえるんだ。
俺が欲しいのは風が吹き白い雲たちが飛ぶ昼、
撥ねる水しぶき、飛ぶ泡、そして鴎の叫びだ。
絶対に海へ帰るぞ、ジプシー風の放浪生活へ
風も砥いだナイフとなる鴎の道へ、鯨の道へ。
俺が欲しいのは笑う海賊連中の愉快な冒険談、
そして長い幻の後の静かな眠りと美しい夢だ。
『海水の詩とバラッド』より
(Salt-Water Poems and Ballads, 1916)
絶対に海へ帰るぞ、誰もいない海とあの空へ。
俺が欲しいのは大きな帆船と操縦のための星、
あの跳ねる舵輪、風の歌、真っ白な帆の揺れ
海面を覆う薄暗い霧、そして薄明るい朝日だ。
絶対に海へ帰るぞ、あの潮の流れの呼び声が、
無視できない大声がはっきりと聞こえるんだ。
俺が欲しいのは風が吹き白い雲たちが飛ぶ昼、
撥ねる水しぶき、飛ぶ泡、そして鴎の叫びだ。
絶対に海へ帰るぞ、ジプシー風の放浪生活へ
風も砥いだナイフとなる鴎の道へ、鯨の道へ。
俺が欲しいのは笑う海賊連中の愉快な冒険談、
そして長い幻の後の静かな眠りと美しい夢だ。
『海水の詩とバラッド』より
(Salt-Water Poems and Ballads, 1916)
2017/05/29
北村透谷「情熱」(現代語訳)
1. ミルトンは情熱(impassioned)を大詩人の一要素とした。深幽や清楚を備えている者は少なくないが、しかし真の情熱を具有することは大詩人にしか期待できない。風刺(satire)もユーモア(humor)も適切に備えている者は多いが、情熱を欠いているために真正の詩人になれない者は一々数えるまでもない。情熱のない風刺家(satirist)の筆は、風刺という半面を完備していても、人間の実相を刻むことができない。ヴォルテールとスウィフトが偉大であるのは、その風刺が偉大なのではなく、その情熱に熾烈なところがあるからである。ユーモア作家(humorist)はおそらく趣が異なるが、これもまた密かに情熱を有するものでなければ、戯言戯語の価値を超えることはできない。
2. とはいうものの、最も多くの情熱が必要だと認められるのは悲劇(tragedy)においてである。シュレーゲルも悲劇の要素は熱意であると論じられていた。熱意も情熱も要するにその素は一つである。情熱を欠いた聖浄はおそらく講壇に発する乾燥した声のようなものであり、芸術の進化(evolution)には不適当である。情熱を欠いた純潔はおそらく無邪気な記述に留まるものであり、これもまた詩の変化を実現できない。情熱を欠いた深幽はおそらく壊滅的なもの(Annihilative)であり、物に触れても響くところがなく、深淵の深く澄んだ妙趣はあっても、巨大な滝が流れて岩石が振動するような詩趣はない。およそ芸術の壮快を極めるもの、荘厳を極めるもの、優美を極めるものは必ずその根底において情熱を具有していないはずがない。内に秘めた高まり[欝悖(うつぼつ)]があって初めて外へ格別な光線を放つものである。情熱は全てこれに風変わりな洗礼を施すもの、特殊な進化をもたらすものである。「神聖」という言葉や「純潔」という言葉など、計り知れない味わいがあると言われるものはつまるところ相対的なものであるが、情熱と結合し始めると、情熱による最後の洗礼によって遂にほとんど絶対的なものの偉観を呈する。
3. 詩人は人類を無差別に批判するものである。「神聖」も「純潔」もある一定の尺度で測量すべきものではなく、どこまでも生きた人間として観察すべきものである。「時」と「場所」に限定され、ある宗教の形式(form)に拘り、ある道義の体系(system)に泥んで人生を批判することは、詩人の忌むべきことである。人生の生きた側面を観るには極めて平静な活眼がなくてはならない。写実(realism)は到底是認できない。ただ写実が写実である限り、おそらくその注目するところに食い違いがあったり、殊更に人間の醜悪な部分のみを描写するに留まったり、あるいはひたすら調子の狂った心の解剖に従事することへ意を注いだりする。これらは写実に偏ることの弊害が積み重なったものであり、人生を利することも覚束なく、宇宙の進歩に益するところもない。私は写実を厭う者ではない。しかし卑俗な目的によって成り立つ写実は、好美のものと言うことができない。写実も到底情熱を根底に置かなければ、写実のために写実をなすという弊害を免れられない。あるいは写実と理想を兼ね備えたものがあったとしても、情熱がなければどうやってその妙趣に達し得るのだろうか。
4. 情熱は虚思の反対である。情熱は執であり、放ではない。およそ情熱のあるところには必ず拘るもの[執る(まもる)もの]があり、それゆえに大いなる詩人には必ず一種の信仰があり、必ず一種の宗教があり、必ず一種の神学がある。ホメロスに古代ギリシアの神霊が見られ、シェイクスピアに英国近世の信仰が見られ、西行に西行の宗教があり、芭蕉に芭蕉の宗教があるが、ただ俗眼ではこれを見ることができないのは、全ての儀式と全ての形式を離れて成り立つ宗教だからである。彼らの宗教的観念は具体的にすることができないが、だからと言って宗教が無いのだと言うのは、宗教が何であるのかを知らない論者の見解である。人類に対する濃厚な同情も、宗教の一部と呼んではならないのだろうか。人類のために沈痛な批判を下して反省を促すのも、宗教の一部と呼んではならないのだろうか。悲劇(tragedy)も宗教であり得るし、喜劇(comedy)も宗教であり得る。しかし誤解しないでほしい。私は無暗に宗教と文学を混同し、その具体的な形式を当てはめようと意気込むような主義に加担するものではない。
5. (私が言うところの)宗教は情熱を起こすことを間違いなく一大要素としていなくてはならない。是非と善悪を分別するために最大の力を用いる宗教でなければ、たとえ野蛮な(brutal)情熱を得ることはできても、優と聖と美とを備えた情熱を期待することはできない。宗教的本能は人心の最奥を貫き、純粋な高等進化を全ての観念に施すものである。憐れむべき利己の精神によって生を盗んでいる人間を覚醒し、物類相愛の道理を観るようにし、人類相互の関係を悟らせるものは、宗教の力でなくて何なのか。ここに宗教がある。その後には高尚な(noble)情熱がある。宗教的本能を離れない情熱が芸術に対し、特別な進化(evolution)を与える力を決して軽んじてはならない。
6. いかに深遠な哲理を含んでいても、情熱のない詩は生きた芸術をなせない。いかに技術が精巧を極めていると言っても、もし情熱を欠いたものであれば、丹青の妙を尽くしたものとは言えない。芸術に余情があるのは、その作者に内面の活気があるからである。余情は徒に得られるものではなく、作者の情熱が自然と蓄積するところに余情の源泉が存在するのである。単純な模倣者に人を動かすことができないのはこのためである。大いなる創作は大いなる情熱に伴うものである。創作と模倣は、要するに情熱の有無によって判別すべきである。それゆえ、画家が無意味な事物の模倣を事とし、ひたすら虚妄に心を向けるのは、そもそも情熱を理解していないがゆえの過ちである。
7. 振り返って明治の作家を考えてみると、真に情熱の趣を備えたものを探すことができるだろうか。[幸田]露伴には多少それが見られる。しかし彼の情熱は彼の信仰(宗教?)によって幾分か常に冷却されている。彼は情熱をあり余るほど持っていながら、一種の寂滅の思想によってこれを減退させている。彼が悲劇(tragedy)の大作を完成できないのは、他の原因もあるとしても、主にこの理由からである。[尾崎]紅葉の情熱は宗教と共に歩むものではなく、常に実際(real)に追随するものである。それゆえ彼は世相に対する濃厚な同情を有しているのだが、その著作はどういう訳か妙技に偏っており、詩想の霊感に届かないのは別に情熱が真ではないことに原因があるのではない。[山田]美妙にはほとんど情熱と呼ぶべきものは認められない。叙事家としてはともかく、写実家としての彼の技量は紅葉にも及ばない。[宮崎]湖処子を崇拝する人々の中にしきりに彼の純潔を語る者がいるのは良いが、私は彼の純潔が情熱を洗礼を受けたものではないと信じているため、美しき純潔と言われるのは許せない。嵯峨の屋[おむろ]に面白い情熱があるのは本当であるが、彼の情熱はむしろ田舎法師の情熱であり、大詩人の情熱を遠く離れていると言うべきである。最近は古藤庵[無声]の悲劇が続けて出ているが、読者にはどれにも何となく変わって見えると思う。要するに、古藤庵の情熱にはおそらく従来の作者と違うところがあり、悲劇としての価値はともかく、私はその情熱を大変に得難いものだと認めざるを得ない。斎藤緑雨に面白い情熱があるのは彼の小説を一目見れば看破できることだが、惜しいことにその情熱の素はおそらく卑俗さを免れていない。彼のような風刺の舌を持つ作家が、彼のような卑賎な情熱を持ってしまったのは惜しいことであり、彼を一年でも露伴の書斎に籠らせたらと傍目から心配してしまうものである。今日の作家の病はその情熱の欠乏に基づくところが大きい。人間観の厳粛さや真摯さを今日の作家に伺うことはできないか、これは大したことではない。愛好すべき単純さ(simplicity)と愛隣すべき繊細さ(delicacy)も伺うことができないが、それも大したことではない。もし日本の固有の宗教を解剖し、情熱と相関するところを発見できれば、文学史の愉快な研究となるだろうが、これは私の今日の仕事ではないから、少し触れて識者に問いたいと思う。(完)
(『透谷集』、文学界雑誌社、明治27年10月)
2017/05/15
ワーズワース『雑録ソネット集』 第001歌「献辞」(Dedication)
恵まれた感情は胸の内から飛び立ち
完璧な姿は(時も惜しむほど美しく
だが儚く)シャボン玉にそっくりだ
風に揉まれて飛んでいく夏の遊びに。
恵まれた思考はまさに石そのものだ
石は海辺の細やかな世話に磨かれて
精妙で珍しい縞模様を見せてくれる
それは失われてしまった潤いの光を
水の誘惑を贖うものだ。もしここで、
どうか、友よ!僕がこういう感情や
幸運な思考を見せることがあったら
希望を生んで僕の心を励ましてくれ
贔屓目で持ち上げなくてもいいから
この賜物には十二分の微笑みをくれ。
Happy the feeling from the bosom thrown
In perfect shape (whose beauty Time shall spare
Though a breath made it) like a bubble blown
For summer pastime into wanton air;
Happy the thought best likened to a stone
Of the sea-beach, when, polished with nice care,
Veins it discovers exquisite and rare,
Which for the loss of those moist gleams atone
That tempted first to gather it. If here,
O Friend! such feelings sometimes I present
To thy regard, with thoughts so fortunate,
Then let a hope spring up my heart to cheer
That thou, if not with partial joy elate,
Wilt smile upon this Gift with more than mild content!
完璧な姿は(時も惜しむほど美しく
だが儚く)シャボン玉にそっくりだ
風に揉まれて飛んでいく夏の遊びに。
恵まれた思考はまさに石そのものだ
石は海辺の細やかな世話に磨かれて
精妙で珍しい縞模様を見せてくれる
それは失われてしまった潤いの光を
水の誘惑を贖うものだ。もしここで、
どうか、友よ!僕がこういう感情や
幸運な思考を見せることがあったら
希望を生んで僕の心を励ましてくれ
贔屓目で持ち上げなくてもいいから
この賜物には十二分の微笑みをくれ。
Happy the feeling from the bosom thrown
In perfect shape (whose beauty Time shall spare
Though a breath made it) like a bubble blown
For summer pastime into wanton air;
Happy the thought best likened to a stone
Of the sea-beach, when, polished with nice care,
Veins it discovers exquisite and rare,
Which for the loss of those moist gleams atone
That tempted first to gather it. If here,
O Friend! such feelings sometimes I present
To thy regard, with thoughts so fortunate,
Then let a hope spring up my heart to cheer
That thou, if not with partial joy elate,
Wilt smile upon this Gift with more than mild content!
2015/12/31
翻訳 A.テニスン「旧き年の死(The Death of the Old Year)」
膝を隠す深さに冬の雪は積もり、
冬の風は物憂げに溜息を吐いている。
諸君、教会の鐘を鈍く悲しく鳴らそう、
そろそろと歩み、ひそやかに語ろう、
旧き年が死にゆくところなのだから。
旧き年よ、死んではならない。
ほら、君は僕らの許へ颯爽と現われ、
僕らと共に悠々と暮らしたんだ。
旧き年よ、死んではいけない。
彼は静かに伏せたまま、動かない。
彼が日の目を見ることは無いだろう。
彼の命はこの他にもう無いのだ。
彼は友人と本当の恋人をくれたのだが、
新年はみんな持ち去ってしまうだろう。
旧き年よ、逝ってはならない。
ほら、久しく君は僕らと一緒にいて、
彼は満杯の盃を縁まで泡立てた。
これより素敵な年はもうあるまい。
たとえ彼の目が霞んでいっても、
たとえ彼を悪く言う敵がいても、
彼は僕にとって一人の友であった。
旧き年よ、死んではいけない。
ほら、僕らは君と共に笑って泣いて、
僕の心も半分は君と共に死ぬんだ、
旧き年よ、もし君が死ぬのなら。
彼は洒落冗談に欠かなかったけれど、
あの陽気な軽口も全てお仕舞だ。
彼を見届けるために荒れ野を越えて、
子孫たちが早馬を急ぎ走らせても、
彼はその前に亡くなっているだろう。
全ては彼のものとなるんだ。
彼の呼吸の苦しさよ!雪の彼方に
今しがた、僕は長鳴き鶏の声を聞いた。
影たちがあちこちでゆらめている。
蟋蟀が歌っている。灯火は下火だ。
もうすぐ、十二時になるのだ。
死ぬ前に握手を交わそう。
旧き年よ、僕らは切に君を悼むよ。
僕らは君に何ができるだろうか?
死ぬ前に聞かせてくれないか。
彼の顔が痩せ細っていく。
ああ!僕らの友は逝ってしまった。
その目を閉じ、顎を結わえてやろう。
その体から離れて、彼を迎えよう、
彼はそこに一人で立っている。
戸口で待っているんだ。
新しい客人の足音がする、友よ、
戸口には新年がいるんだ、友よ、
ドアには一人の新年が。
2013/12/08
ルートヴィヒ・ウーラント 「海辺の城」 Ludwig Uhland. Das Schloss am Meere.
「あの城を見たかい
背の高い海辺の城を。
黄金の雲や薔薇色の雲が
その上を流れていたろう。
澄んだ水鏡の深みに
沈み込もうとしながら
燃える夕雲の高みに
飛び込もうと努める城を。」
「ああ、それなら見たよ
海辺の高い城だろう。
上には月が立っていて
周りには霧が広がっていた。」
「風や波立つ海の音は
生き生きとしていたかい。
高いところの広間からも
弦楽と祝祭の歌が聞こえてきただろう。」
「風や波はみな
深く休らっていた。
哀悼の歌が広間から聞こえてきて
涙を流してしまったよ。」
「じゃあ王と妃は
見えたかい。
赤いマントがはためき、
金の冠が輝いていたろう。
二人はうっとりとしながら
愛らしい乙女を連れていなかったかい。
太陽のようにまばゆく
金髪のきらめいている乙女を。」
「ああ、王と妃は見たけれど
光る冠はしていなかった。
真っ黒な喪服を身につけて
乙女の姿はなかった。」
2013/08/22
Matthew Arnold, 'Shakespeare' (シェイクスピア)
詩人たちはみな我々の問いに捕まる。しかしあなただけは自由だ。
訊ねても訊ねてもーあなたはただほほ笑み、口を閉ざしたまま
認識を超えて高く、遥かにそびえ立っている山が
その冠を脱ぐのは星空の前のみ
海深くにしっかりと足跡を刻み込み、
天空の上のさらなる高みを住みかとし
死すべき者たちの挫かれた探究心の前には
雲の境界が許す分だけの裾野を広げて見せるのみ
あなたはそうして星々と日光を見知っているが
あなたを教え、見つめ、そしてその才能に名誉と保証を与えたのも、あなた自身であった
あなたは噂されることなく地を歩いていた。―その方が良いのだ!
不死の魂が耐えているすべての痛みは、
傷を残すすべての弱さ、心を折るすべての悲しみは
かの覇者の額の中に、自らに相応しいただ一つの声を見出す。
2013/08/09
クリスティーナ・ロセッティ 「挽歌」 Christina Rossetti. Requiem.
ねえ、わたしが死んでしまっても
かなしい歌は歌わないで
薔薇を植えるのもいや
影を落とす糸杉もいらない
それよりも緑の若草がいい
雨露をしたたらせるの
憶えているなら、憶えていて
忘れるのなら、忘れていて
影を見ることもないでしょう
雨と知ることもないでしょう
つらそうに歌うナイチンゲールを
聴くことももうないでしょう
朝の来ない暁、夜の来ない黄昏
そこで夢に結ばれて
思い出すこともあるでしょう
忘れることもあるでしょう
2013/08/08
クリスティーナ・ロセッティ 「風」 Christina Rossetti. The Wind.
風を見たのは誰かしら
わたしもあなたも見ないけど
木の葉が揃って笑うとき
通り抜けるのは風一つ
風を見たのは誰かしら
あなたもわたしも見ないけど
立ち木が会釈をかわすとき
通り過ぎるのは風一つ
2012/11/29
オスカー・ワイルド 『幸せな王子さま』 Oscar Wilde. The Happy Prince.
幸せな王子さまの像は、街並みよりずっと高いところ、ある背の高い柱の上にありました。その体は純金の箔で覆われ、その両目にはサファイアがきらきらと輝き、その剣の柄には真っ赤なルビーが燃えるように光っていました。
王子さまの像はそれはそれは感心されていました。「彼は風見鶏と同じくらい美しいよ。」町議会の議員の一人が――この人は芸術的な趣味を持っているという評判を得たいと願っていたのですが――こう評したこともあります。「大変役に立つだけでなくね。」みんなが自分を実際的でないと考えたらいけないと気づかって――たしかに実際的でない人でしたが――、彼は付け加えていました。
王子さまの像はそれはそれは感心されていました。「彼は風見鶏と同じくらい美しいよ。」町議会の議員の一人が――この人は芸術的な趣味を持っているという評判を得たいと願っていたのですが――こう評したこともあります。「大変役に立つだけでなくね。」みんなが自分を実際的でないと考えたらいけないと気づかって――たしかに実際的でない人でしたが――、彼は付け加えていました。
「どうして君は幸せな王子さまのようにいられないんだい?」感じやすい母親が、月を欲しがって泣いている坊やに尋ねることもありました。「幸せな王子さまは何かを欲しがって泣くなんて夢にも見やしないよ。」
「世界のどこかにとても幸福な人が誰かいるなんて嬉しいことじゃないか。」素晴らしい像を見つめながら、ある男の人がため息混じりに呟いたこともあります。
「王子さまってまるで天使みたい。」大聖堂から出てきてこんなことを言ったのは、こぎれいな白いエプロンドレスに明るい紅色のマントを羽織った養育院の子どもたちです。
「どうしてわかるんだい?」数学教師が尋ねています。「天使なんて見たことないはずだろう。」
「うん!でも僕たちは見たよ、夢の中でね。」子どもたちがこたえます。すると数学教師は、子どもの見た夢に合点がいかず、しかめっ面をしていました。
ある夜、そんな街に小さなツバメが流れ着きました。ツバメの仲間たちは六週間前にエジプトへ行ってしまっていたのですが、彼はみんなから遅れたままでした。というのも彼は、それはとても美しい葦に恋をしていたのです。ツバメがその葦に出会ったのは春先のことです。ちょうど彼が大きな黄色い蛾のを追って川に降り立ったときでした。ツバメは彼女のすらりとした腰つきにとても魅入ってしまい、そこに留まって彼女に話しかけたのでした。
ツバメは彼は単刀直入に話すのが好きでした。そこで彼は言いました。「愛してもいいかい?」すると葦は彼にお辞儀をしました。ツバメは彼女の回りをくるくると飛び回り、その翼で水に触れて銀色のさざなみを立たせました。この彼なりの求愛のしぐさでしたは、夏の間ずっと続くのでした。
「馬鹿みたいな愛情だよ。」他のツバメたちはつぶやいていました。「あの葦は金は持ってないくせに、親戚は腐るほどいるんだぜ。」たしかに、川には本当にたくさんの葦がいました。そうして、秋の訪れとともに他のツバメたちは飛び去ってしまいました。
仲間たちが去ってしまうと小さなツバメはさみしくなりました。そしてその恋人にもうんざりしてしまいました。「彼女は何にも話してくれない。」彼は言いました。「もしかしたら彼女は僕の気持ちで遊んでいるんじゃないかな。だっていつも風とだって仲良くしてるんだもの。」ツバメの言う通り、葦は風が訪れるときはいつだってとびきりおしとやかなお辞儀をするのでした。彼はつづけました。「君が家庭的なのは認めるけど、僕は旅が好きなんだ。つまりその、僕のお嫁さんになる人も旅が好きじゃなくちゃいけないのさ。」
「だから、君も一緒に来てくれるかい?」ツバメはついに葦に言いました。しかし彼女は首を横に振りました。葦は、自分の住んでいる場所が大好きだったのです。
「君は本気じゃなかったんだ。」ツバメは泣きました。「僕はピラミッドへ発つよ、さよなら!」そして彼は飛び去ったのでした。
一日中彼は飛びました。そうして街に着いたときには夜になっていました。「どこで休もうか?」彼は言いました。「街が僕を迎える準備をしてくれてたらいいんだけどな。」
そのとき、彼は背の高い柱に乗った王子さまの像を見つけたのです。
「あそこで休もう」彼は元気に言いました。「素敵な場所じゃないか、おいしい空気もたっぷりあるし。」そういうわけでツバメは幸せな王子さまの足と足のちょうど間ぐらいに降り立ちました。
「僕は黄金の寝室を手に入れたわけだ。」ツバメは周りを眺めながらそっと独り言をいいました。そして眠る支度をしました。しかし、彼が頭を翼の中にしまいこむと、大きな滴が彼の上から落ちてきました。「どうも変だな!」彼は元気に言いました。「空にはこれっぽっちも雲なんかないし、輝く星たちも透き通るようによく見える。なのに雨が振るなんて。北ヨーロッパの気候は本当にひどいもんだ。あの葦は雨が好きみたいだったけれど、あれはただのわがままだったのさ。」
すると滴がもう一つ落ちてきました。
「雨もよけてくれないならこの像はなんのためにあるんだろう?」ツバメは言いました。「もっといい煙突をさがさなくちゃ。」そうして彼は飛び立とうと決めました。
しかしツバメが翼を開いた時、三つ目の滴が落ちてきました。彼は顔を上げてみました。ああ!ツバメの目には何が映ったのでしょう!
それは、涙でいっぱいの幸せな王子さまの両目でした。そして、王子さまの黄金の頬をつたう涙でした。王子さまの泣き顔が月の光の中でとても美しく光っていたので、小さなツバメはかわいそうな気持ちでいっぱいになりました。
「君は誰だい?」ツバメは言いました。
「僕は幸せな王子さ。」
「じゃあ、どうして泣いているんだい?」ツバメは尋ねました。「おかげでこっちはずぶぬれだよ。」
「僕がまだ生きていて、まだ人間の心臓を持っていた頃、僕は涙がどんなものか知らなかったんだ。」王子さまの像がこたえました。「というのも、僕はサンスーシに住んでいたんだけれど、そこには悲しみが入り込む隙間なんてなかったんだから。日が射しているあいだは、庭で仲間たちと遊んでいたし、日が沈んでいるあいだは、大広間で先頭に立ってダンスをしていた。その庭の回りといえばとても高い壁がめぐらされていたけれど、その向こうに何があるのかなんて尋ねる気も起きなかった。とりあえず、僕の回りにある何もかもが美しかったんだ。僕に付き添う宮廷の人たちは僕のことを幸せな王子さま、と呼んでいたよ。そして実際僕は幸せだった――もし快いことを幸せと呼べるならね――。そんな風に僕は生きて、そんな風に僕は死んだ。そして、僕が死んだ今になって、みんなが僕をこんな高いところにおいてくれたおかげで、僕はこの街にある醜いことすべて、そして悲しいことすべてを見ることができるようになったんだ。もう僕の心臓は鉛なのに、僕は泣かないではいられないんだ。
「なんてこった!こいつは金無垢じゃないのか?」ツバメは独り言をつぶやきました。彼は当てつけがましいことを大声で言うには礼儀正しすぎたのです。
「遠くに、」王子さまの像は低い、音楽のように響く声でつづけました。「遠くに小さな通りがあるんだ。そこには貧しい家があるけれど、窓が一つ空いているから机に向かっている女の人が見えるんだ。彼女の顔は細くやつれているよ。彼女の荒れた真っ赤な手がお針子の仕事のせいであちこち刺されている。彼女はサテンのガウンに時計草の刺繍を縫っている。それを女王様のとびきり可愛い侍女が次の舞踏会に着ていくのさ。部屋の隅では小さな男の子が病気で寝込んでいるよ。彼には熱があって、オレンジを欲しがっている。けれど彼の母親は川の水以外にあげられるものがなくて、それで彼は泣いている。ツバメ君、ツバメ君、小さなツバメ君。僕の剣の柄からルビーを抜き取ってあの母親に届けてはくれないか?僕が足がこの台座に打ちつけられていて動けないんだ。
「僕はエジプトに友だちを待たせてるんだ。」ツバメは言いました。「僕の友だちはナイル川で飛び上がったり舞い降りたりしながら、大きな蓮の花に話しかけているのさ。みんなすぐに大王さまのお墓で眠っちゃうんだろうな。大王さま自身はあざやかな棺に入ってるんだけど、黄色の亜麻布に包まれて、香辛料を詰められてるんだ。その首には淡い緑色のヒスイの輪がかけられていて、その両手はまるで葉っぱが生い茂ってるみたいなんだ。」
「ツバメ君、ツバメ君、小さなツバメ君。」王子さまは言いました。「それなら一晩だけ、僕のためにここにいてくれないか?そして僕のお使いをしてくれないかい?あの男の子はひどく喉を乾いている上に、あの母親はとても悲しんでいるんだ。」
「思うに、僕は男の子が好きじゃないんだな。」ツバメはこたえました。「この前の夏、僕が川にいたとき、ずいぶん乱暴な男の子が二人いてね。粉屋の息子さ。そいつらはいっつも僕に石を投げてくるんだ。もちろん、当てられなんかしないけどね。僕たちはそりゃあうまく飛び去って、そのうえ僕は素早いことで知られた家系の出なんだからね。でもやっぱり、あれは不敬の証ってやつだよ。
しかし、幸せな王子さまがほんとうに悲しそうにしているので、小さなツバメはなんだか申し訳なくなりました。「ここは寒いよ。」ツバメは言いました。「けど、もう一晩だけなら一緒にいてやってもいいよ。もちろん、お使いもね。」
「ありがとう、小さなツバメ君。」王子さまは言いました。
そういうわけでツバメは大きなルビーを王子さまの剣から抜き取り、口先に加えて街の屋根たちの上を飛んで行きました。
ツバメは大聖堂の塔を越えて行きました。塔には白い大理石で天使たちが彫られていました。ツバメはダンスの音が聞こえる宮殿を越えて行きました。美しい女の子が、恋人と一緒にバルコニーに出てきていました。「星はなんてすばらしいんだろう。」恋人は女の子に言いました。「そして愛の力はなんてすばらしいんだろう!」
「私のドレスが舞踏会に間に合えばいいんだけど。」彼女は言いました。「私、注文したのよ。時計草の刺繍をしてくださいって。でもあの針子は怠け者なのよ。」
ツバメは川を越えて行きました。いくつもの舟のマストにランタンがぶらさがっていました。ツバメはゲットーを越えていきました。年老いたユダヤ人たちが互いに取引をして、銅の天秤でお金を計っていました。ついにツバメは貧しい家にたどり着きました。覗き込んでみると、男の子は熱にうなされながらベッドで寝返りを打っていました。母親は眠ってしまっていました。とても疲れていたのです。ツバメはテーブルに飛び乗ると、母親の指ぬきのそばに大きなルビーを置きました。そしてツバメはベッドの周りを優しく飛び回り、男の子の額を翼で仰いであげました。「なんですずしいんだろう。」男の子は言いました。「きっとよくなってるんだ。」そして男の子は心地いいまどろみの中へ沈んでいきました。
そうして、ツバメは幸せな王子さまのところへと戻ってきました。そして、うまくやったことを伝えました。「変だな。」彼は言いました。「こんなに寒いのに、とても温かい気がするよ。」
「それはいいことをしたからさ。」王子さまはいいました。それを聞いた小さなツバメは考えてみましたが、やがて眠りに落ちてしまいました。考えると彼はいつも眠くなるのです。
日が昇り、ツバメは川へ降り立ち、一浴びしました。「なんとも興味深い現象だ。」鳥類学の教授が橋を渡りながら言いました。「冬にツバメとは!」そして教授はそのことについて地元の新聞社へ長々と書いて送りました。みんながその記事を引用しました。その記事はみんなが理解できないたくさんの言葉でいっぱいだったのですが。
「今夜はエジプトに行くよ。」ツバメは言いました。そして先のことを考えつつうきうきしていました。彼は街中の記念碑を見て回ってから、長い間教会の尖塔の上にとまっていました。彼がどこに行っても雀たちは互いにチュンチュン言っていました。「なんて目立つ旅行者だろう!」そんなわけでツバメは大変楽しんだのでした。
月が上ったころ、ツバメは幸せな王子さまのところへ戻ってきました。「エジプトにことづけはあるかい?」彼は元気に言いました。「もう行くからね。」
「ツバメ君、ツバメ君、小さなツバメ君。」王子さまは言いました。「もう一晩だけここにいてはくれないか?」
「エジプトで待たせてるんだってば。」ツバメはこたえました。「明日にはきっとみんな二つ目の大滝に向かって飛び立っちゃうよ。カバたちが、大きなミカゲ石でできたメムノーン神の王座の上で、ガマにかこまれながら寝そべってるんだ。メムノーン神といえば、一晩中星を見つめていて、明けの明星が輝くころに喜びの一声を上げてまた静かになるんだ。昼間には黄色いライオンたちが水辺に降りてきて水を飲む。その目は緑色の宝石みたいで、その唸り声は大滝の声よりも大きいんだ。」
「ツバメやツバメ、小さなツバメ君よ。」王子さまは言いました。「街の向こうに、屋根裏部屋が見える。そこには若い男の人がいるんだ。彼は紙でいっぱいの机で勉強していて、脇にある大きな器にはスミレが束になって茂っている。彼の茶色の髪の毛で縮れていて、彼の唇はザクロのように真っ赤だ。そして彼の大きな両目は夢を見ている。劇場の監督のために劇の台本を書きあげようとがんばってるんだよ。でも彼は寒さでまいっていて書きつづけられないんだ。暖炉には火がないし、彼は空腹で気が遠くなってるみたいだ。」
「もう一晩だけ一緒にいてもいいよ。」ツバメは言いました――彼は本当に良い心の持ち主なのです――。「じゃあ別のルビーを取っていいかい?」
「ああ!もうルビーは無いんだ。」王子さまは言いました。「残っているものといえば僕の両目だ。千年も前にインドから持ってきた珍しいサファイアでできているんだ。このうち一つを抜き出してどうかあの男の人に届けてくれ。彼が宝石商に売れば、食べ物も薪も買える。あの台本も書き終えるさ。」
「王子さま。」ツバメは言いました。「それはできない相談だよ。」そして彼は泣きだしました。
「ツバメ君、ツバメ君、小さなツバメ君。」王子さまは言いました。「お願いだよ。」
ツバメは王子さまの片目を抜き出して、あの学生がいる屋根裏部屋へと飛んで持っていきました。中には簡単に入れました。というのも屋根には穴があったからです。ツバメはこの穴を通って部屋に降りて行きました。若い男は頭を両手にうずめていたのでツバメの羽ばたきが聞こえませんでした。そして彼が目を上げると、生い茂ったスミレの中に美しいサファイアがあるのを見つけました。
「僕も世の中に認められはじめたんだ。」彼は叫びました。「これはきっと僕をすごく称賛してくれる誰かからのものだ。これで書き終えられるぞ。」若い男は幸せそうでした。
次の日ツバメは、港に降り立ちました。彼は大きな船のマストにとまり、船乗りたちが大きな箱を船倉からロープでひっぱっているのを見ていました。「よいこらせ!」船乗りたちが叫ぶのに合わせて箱が出てきました。「エジプトに行くんだ!」ツバメは元気に言いました。しかし誰もツバメを気にとめませんでした。やがて月が昇り、ツバメは幸せな王子さまのところへ戻ってきました。
「さよならを言いに来たよ。」ツバメは元気に言いました。
「ツバメやツバメ、小さなツバメ君。」王子さまは言いました。「もう一晩だけ、一緒にいてくれないかい?」
「もう冬なんだ。」ツバメは言いました。「もうすぐここには冷たい雪が降るよ。エジプトだったら緑のシュロの木の上で温かい太陽を浴びれるし、ワニたちが泥の中でのんびり寝そべっているのが見れるんだ。僕の仲間たちはバールベック寺院の中に巣を作ってるところだろうな。そしてピンクや白のハトたちはそれを観ながら互いにクークー鳴くんだろうな。なあ、王子さま、僕はいかなきゃならないんだ。けれど次の春が来れば僕は君があげてしまったような美しい宝石を宮殿から持ってきてあげるよ。そのルビーは真っ赤なバラよりもっと赤くで、そのサファイアは大きな海のように青いと思うよ。」
「下の広場に、」幸せな王子さまは言いました。「小さなマッチ売りの女の子が立っているよ。彼女は溝にマッチを落としてしまったみたいだ。マッチはもうダメだろうな。もしお金を家に持って帰れなければ、あの女の子は父親にぶたれてしまうんだろう。あの子は泣いているよ。靴もストッキングも無いじゃないか。小さな頭には何もかぶってないよ。僕のもう片方の目を取ってくれ。そして彼女にあげてくれ。父親があの子をぶたないように。」
「もう一晩だけ一緒にいてあげるよ。」ツバメは言いました。「でも君の目は取れないよ。君は何も見えなくなっちゃうなじゃないか。」
「ツバメ君、ツバメ君、小さなツバメ君。」王子さまは言いました。「お願いだよ。」
ツバメは王子さまの残りの片目も抜いてしまいました。そしてそれを持って飛び降りて行きました。彼は素早くマッチ売りの女の子のところへ下り、その手のひらに宝石を落としました。「なんてきれいなガラスのかけら。」女の子は元気をもらって言いました。そして家へ走って行きました、笑いながら。
そのあと、ツバメは王子さまのところへ帰ってきました。「君はもう何にも見えないんだろう。」ツバメは言いました。「じゃあ僕がずっとここにいてあげるよ。」
「だめだよ、小さなツバメ君。」かわいそうな王子さまは言いました。「エジプトに行かなきゃ。」
「ずっとここにいるんだ。」ツバメはそういうと、王子さまの足元で眠ってしまいました。
次の日ツバメはずっと王子さまの肩にとまっていました。そして奇妙な土地で見たものについての話をしていました。ナイル川の両岸に長い列を作り、そのくちばしで金魚を捕まえている真っ赤なトキの話。世界と同じくらいの年を取っており、砂漠に住んでいて、そして何でも知っているスフィンクスの話。ラクダのそばをゆっくりと歩き、琥珀を手に持って運んでいる商人の話。黒檀のように黒く、大きな水晶を礼拝している月の山々の王の話。シュロの木の中に眠り、二十人もの司祭に蜜入りケーキで養われている大きな緑の蛇の話。そして、大きな湖を大きな平たい葉っぱを漕いで渡り、いつも蝶々たちとけんかをしているピグミーの話。
「小さなツバメ君。」王子さまは言いました。「君は不思議なことをたくさん教えてくれるね。けれど何よりも不思議なのは男の人たちと女の人たちのことだよ。みじめな悲しみほど謎めいたものは無いよ。街の上を飛んでいって、見えたものを教えてほしい。」
そういうわけでツバメは大きな街の上を飛んでいきました。一方では、お金持ちの人々が美しい家で陽気に過ごしていました。他方では、物乞いの人たちがその門の前に座り込んでいました。ツバメは暗い小道に入っていきました。飢えた子どもたちが白い顔をして、外の真っ黒な大通りを物憂げに眺めていました。橋のアーチの下では、二人の小さな男の子があたたまるように互いの腕の中に体をあずけていました。「なんて腹ぺこなんだ!」男の子たちは言いました。「ここから退きなさい。」警備員に怒鳴られると、男の子たちは雨の中へさまよい出ていきました。
その後、ツバメは帰ってきて、王子さまに自分が見たものを教えました。
「僕は純金で包まれてる。」王子さまは言いました。「それをはがしてくれ。一枚一枚。そして貧しい人たちにあげてくれ。生きている人たちはいつもこの黄金があればきっと幸せになれると思っているよ。」
一枚、また一枚とツバメは王子さまから純金をはがしていきました。幸せな王子さまの輝きがとても鈍くなり、灰色になってしまうまで。一枚、また一枚とツバメは貧しい人たち、そして赤らんだ顔をした子どもたちに純金を持っていきました。すると子どもたちは笑顔になり、通りで遊びをはじめました。そして声が聞こえます。「パンが食べれるんだ!」
やがて、雪が降ってきました。雪に続いて、冷たさが降ってきました。光輝いてぴかぴかになった大通りはまるで銀でできたようでした。家々の軒にぶらさがった長いつららは水晶でできた短刀のようでした。誰もかれもが毛皮をまとって出歩いていました。小さな男の子たちは緋色の帽子をかぶって氷の上でスケートをしていました。
かわいそうな小さなツバメの体はだんだんと冷えていきました。しかし彼は王子さまのもとを離れませんでした。彼は王子さまを愛しすぎていたのです。ツバメはパン屋の見てないうちに、そのドアの外に落ちているパンくずをついばみました。そして翼をはばたかせて暖をとろうとしました。
しかし、自分のもとに死が訪れようとしていることをツバメは知っていました。彼は最後の力を振り絞って王子さまの肩に飛び乗りました。「さよなら、愛する王子さま!」ツバメは弱弱しくつぶやきました。「君の手にキスしていいかい?」
「やっとエジプトに行けるんだね。僕は嬉しいよ、小さなツバメ君。」王子さまは言いました。「君はここに長くいすぎたね。キスをするならこの唇にしておくれ、愛するツバメ君。」
「僕が行くのはエジプトじゃないよ。」ツバメは言いました。「僕はそろそろ死の家に行くのさ。死は眠りの兄弟なのさ。そうだろう?」
そしてツバメは幸せな王子さまの唇にキスをすると、その足元へと舞い落ちて、冷たくなりました。
そのときのことです。王子さま像の中で鋭い音が――何かがこわれてしまったかのように――鳴り響きました。実を言うと、王子さまの鉛の心臓は真っ二つに割れてしまったのです。心臓は確かに、恐ろしいほど冷えていたのです。
翌朝早くに、町長は町議会の議員たちと一緒に象の下の広場を歩いていました。柱のそばを通り過ぎるときに町長はふと王子さまの像を見上げ、言いました。「おや!幸せな王子さまがなんてみすぼらしく見えるんだろう!」
「確かにみすぼらしい!」いつも町長に賛成している街の議員たちは言いました。そしてよく見るために近寄っていきました。
「ルビーは剣から落ちてしまっているし、両目もなくなっている。しかももはや金ぴかでもないなんて。」町長ははっきり言いました。「これじゃあ王子さまは乞食と同じじゃないか!」
「乞食と同じですな。」議員たちは言いました。
「しかも見てみれば足元には死んだ鳥もいる。」町長はつづけました。「鳥がここで死ぬのを禁止する宣言を本当に考えなければならんな。」それを議会の書記がその提案を書きとめました。
そういうわけで、幸せな王子さまの像は柱から下ろされました。「美しくない以上は役にも立たぬ。」大学で美術を教えている教授が言いました。
その後王子さまの像は炉の中で溶かされました。そして、町長はその金属を何に使うかを決める市議会を開きました。「私たちがつくるのはもちろん別の像だ。」彼は言いました。「そしてそれは私の像にしようじゃないか。」
「私の像にしよう。」議員のそれぞれがそう言いました。そうして口論が起こりました。私が最後に聞いたときも町長と議員たちはまだ口論を続けていました。
「なんて妙なことだ!」鋳造所の作業員たちを監督していた者が言いました。「この壊れちまった鉛の心臓は炉につっこんでもどうも溶けない。仕方ない、そんなもの捨ててしまおう。」そうして作業員たちは鉛の心臓をごみ溜めに――ここには死んだツバメも横たわっていました――捨ててしまいました。
そのころのことです。「あの街でもっとも価値のあるものを、私のところへ二つ持っておいで。」神様は天使の一人に言いました。そこで天使が持って来たものは、鉛の心臓と、冷たくなった鳥でした。
「お前たちはちゃんと選んだね。」神様は言いました。「なぜって、この小さな鳥は、私の楽園の庭でいつも歌うだろうし、この幸せな王子は、私の黄金の街の中で私をきっと称えるだろうからね。」
おしまい。
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