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2017/11/26

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「一つ確かなこと」

一つ確かなこと


説教者曰く、空虚を重ねた空虚、
 全ての物事は空虚だ。目も耳も
 見聞きするものに満たされない。
まるで朝露や、ふと吹き抜ける
風や、あるいは枯れ草のように
 人は希望と不安に揺られていく。
 楽しいのも嬉しいのも少しだけ
全ては死の久しい塵に行き着く。
今日が来ても昨日とは変わらず
 明日もまたいつかと変わらない。
太陽のもとに新しいものは無い。
年老いた時の流れが尽きるまで
 古い茎から古い茨たちが伸びて
朝は冷たく夜明けは灰色だろう。


Christina Rossetti, "The One Certainty"
in Goblin Market (1862).

2017/11/23

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「休息のソネット」

休息のソネット

おお、大地よ、彼女の目元を重く覆え
見疲れた可憐な瞳に封をせよ、大地よ。
彼女を密に取り囲め、甲高い笑い声や
溜め息の音の通る隙間を残すことなく。
彼女は問うことも答えることもやめて
静かに払底の恵みによって幕を下ろす
生まれた頃から自分を悩ました全てに。
楽園と見まごうような静謐さによって。
真昼よりも明るい闇が彼女を捕まえる
どんな歌よりも音楽的な沈黙を伴って。
もう彼女の心臓も動かなくなっていた。
彼女の休息は永遠の朝が来るときまで
始まりも終わりもなく続いていくのだ。
目覚めるときまで、長さを感じないで。

Christina Rossetti, "Rest. (Sonnet)"
in Goblin Market (1862).

2017/11/03

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「苦さは甘さに代わって」

「苦さは甘さに代わって」

夏は去っていく、その薔薇と共に
その太陽と芳香と甘い花々と共に
その暖かい風と爽やかな雨と共に。
やがて秋にも終わりがくる。

そう、秋の肌寒い季節が過ぎると
それよりも冷たい冬がやってくる。
日ごとに白い霜の広がりが目立ち
残った蕾も開くのをやめる。

Christina Rossetti, "Bitter For Sweet"
in Goblin Market (1862).

2017/10/30

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「死ぬ前の死人」

「死ぬ前の死人」

ああ!冷たく冷たく変わり果てた
微笑み固まる唇と冷たく和んだ瞳。
相変わらず知識は多く知恵は無い。
これは昔からのお約束だったのだ!
昔の鋳型の中で頑固になってゆき
息の長い嘘の中でこりかたまった。
年月と共にさらなる恵みを願った
それも語り終えたお伽話と同じだ。
実のならない花も残らず散るのだ
現在と未来の時も残らず失うのだ
過去も何も残すことなく失うのだ。
開いた扉を死が閉めるまでに失い
鳴り止まない鐘と鐘の合間に失い
永遠に失ってしまい、ただ冷たい。

Christina Rossetti, "Dead Before Death"
in Goblin Market (1862).


翻訳メモ
「鳴り止まない鐘と鐘の合間に」
(from chime to everlasting chime)
誕生や洗礼から昇天までの間かな、
という思いつきを忘れそうなのでメモ。

2017/10/16

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「歌」

「歌」(愛しい人よ、私が死ぬときに)

愛しい人よ、私が死ぬときに
悲しい歌を歌わないでほしい。
私を埋めたお墓に薔薇の花や
暗い糸杉を植えないでほしい。
私の上には緑の草地を広げて
雨や露の雫で濡らしてほしい。
覚えたければ、覚えてほしい
忘れたければ、忘れてほしい。

もう人影を見ることもないし
もう雨粒を感じることもない。
もう小夜啼鳥が痛がるように
歌う声を聞くこともないのだ。
昇ることも沈むこともしない
薄明の中で私は夢を見続ける。
何か覚えているかもしれない
全て忘れているかもしれない。

Christina Rossetti, "Song"
(When I am dead, my dearest)
in Goblin Market (1862).

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「歌」

「歌(彼女は腰を下ろし歌を歌った)」

彼女は腰を下ろし歌を歌った
いつも、小川の縁の緑の中で。
目の前では魚たちが跳ね回り
楽しげな日の光を浴びていた。

私は腰を下ろし瞼を濡らした
いつも、暗い月の光を浴びて。
目の前では五月の花が散って
小川の流れに運ばれていった。

私は記憶のために瞼を濡らし
彼女は美しい希望に歌を歌う。
私の涙は海の中へ飲み込まれ
彼女の歌は風の中で息絶えた。

Christina Rossetti, "Song"
(She sat and sang alway)
in Goblin Market (1862).

2017/10/15

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「三つの季節」

「希望をカップに一杯!」と言う彼女。
春の花盛りが老けないように。
ワインの深紅も貧しく冷たい
豊かな真紅の唇と比べれば。

「恋心をカップに一杯!」何と小さな、
何と柔らかな声。そう言うと
彼女の赤らんだ頬が微笑んだ
雪の肌に夏が訪れたように。

「記憶をカップに一杯!」
冷めた一杯を独りで飲み干す。
秋の風は悼むような声を上げ
侘しい海を吹き抜けていく。

希望、記憶、それから恋心。
美しい朝には希望を、昼には
恋心を、そして薄暗い夕闇と
独りぼっちの鳩には記憶を。

Christina Rossetti, "Three Seasons"
in Goblin Market (1862).

2017/09/12

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「五月」

 どんなものだったかは言えないが、
わかることもある。あの頃の昼には
光があふれて、風が吹き抜けていた
五月は若かった、ああ、愉快な五月!
まだ雛芥子は花を咲かせていなくて
葉に覆われた柔らかな粒の中にいる。
まだ雛の出てきていない卵はあるが
伴侶のいない鳥はもう一羽もいない。

 あれが何だったのかは言えないが、
わかることもある。終わったことだ。
晴れやかな五月は過ぎ去ってしまい
美しいものも全て過ぎ去ってしまい
老いて冷えた灰色の私が残っている。

Christina Rossetti, "May"
in Goblin Market (1862).

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「蜃気楼」

私の夢見た希望は一つの夢だった
 ただの夢だった。今は目が覚めて
煩い、疲れ、老いがあるばかりだ
 一つの夢のために。

私は竪琴を取って、腰を下ろした
 湖に涙を落としている一本の柳に。
沈黙した竪琴を握りしめ、叩いた
 一つの夢のために。

安らかに、安らかに、砕けた心よ。
 静かな私の心よ、安らかに砕けよ。
人生も世界も自分も変わったのだ
 一つの夢のために。

Christina Rossetti, "Mirage"
in Goblin Market (1862).

2017/09/08

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「こだま」

夜の静寂が訪れたら私のところへおいで
夢という物言う静寂の中へ入っておいで
丸く柔らかな頬と日の差す小川のように
光輝く瞳を連れておいで
涙のもとへ帰っておいで
ああ、過ぎ去った年の記憶、希望、恋よ。

おお、何と甘く、甘過ぎて苦過ぎる夢よ、
目が覚めるなら楽園で覚めて欲しかった
そこで愛に溢れた魂の住人たちは出会い、
両目は渇き焦がれながら
鈍い扉を見つめるだろう
開けば迎え入れ、誰も追い出さない扉を。

でも、夢の中に来てくれたら、生きよう、
死を経て冷たくなったこの命をもう一度。
夢の中で会いに来てくれたら、捧げよう、
脈には脈を、息には息を。
声をひそめてそばにいて、
昔のように、愛しい人、遥か昔のように。 

Christina Rossetti, "Echo"
in Goblin Market (1862).

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「歌」

「歌(同じ一つの枝に止まる二羽の鳩)」

同じ一つの枝に止まる二羽の鳩、
ただ一つの茎に咲く二輪の百合、
一輪の花に止まる二匹の蝶――
ああ、誰かと見られたら素敵だ。

誰かと手を繋ぎ、一緒に眺めて
夏の薔薇色の日光に火照ったら、
誰かと手を繋ぎ、一緒に眺めて
夜など忘れてしまえたら素敵だ。 

Christina Rossetti, "Song"
(Two Doves Upon The Selfsame Branch)
in Goblin Market (1862).

2017/09/07

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「歌」

「歌(ああ、青春の火照りに薔薇を)」

ああ、青春の火照りに薔薇を
若さの盛りには月桂の枝葉を
私には蔦の枝を摘んで下さい
旬の来る前に年老いた私には。

ああ、青春を埋めた墓に菫を
若くして死せる人々に月桂を
私には枯れ葉を贈って下さい
老いる前に選んでおいた葉を。 

Christina Rossetti, "Song"
(O Roses For The Flush Of Youth)
in Goblin Market (1862).

2017/08/25

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「死の後に」

カーテンは半ば閉ざされ、床は濡れて
藺草と共に、ローズマリーと山査子が
私の横たわっていたベッドに散らされ
格子越しから蔦の影が忍び寄っていた。
私にもたれた彼は、眠っている私には
聞こえないと思ったのか、こう言った。
「かわいそうな子よ」顔を背けた彼の
深い沈黙に、彼が泣いたのがわかった。
彼は白装束にも触れず、覆いも取らず、
私の顔を隠したままにし、手も握らず 、
私の頭の乗る綺麗な枕も乱さなかった。
彼は生きていた私を愛さずに、死んだ
私を憐れんだ。とても心地よいことに、
私が冷えても彼はまだ温かいと知った。

Christina Rossetti, "After Death"
in Goblin Market (1862).

2017/08/22

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「覚えていて」

私を覚えていて、私がいなくなるとき、
遠く静かな土地へと去ってしまうとき。
君が私の手を二度と握れなくなるとき、
背を向けた私が半分だけ振り返るとき。
私を覚えていて、毎日していたように
君の描く将来を私に語らなくなるとき。
ただ覚えていて。君も知っているはず
そのときには頼むのも祈るのも遅いと。
けれど私を忘れているひと時があって
その後で思い出しても落ち込まないで。
だって私がいつか抱いた思いの面影を
その暗闇と腐敗が残してくれるのなら、
私を覚えていることで悲しくなるより
忘れたまま笑ってくれる方がいいから。

Christina Rossetti, "Remember"
in Goblin Market (1862). 

C・ロセッティ『小鬼の果実売り』「誕生日」

瑞々しい若枝に巣を作った
歌う小鳥のような気持ちだ。
濃密な実に枝をたわませる
林檎の木のような気持ちだ。
ハルシオンに凪ぐ海で遊ぶ
虹色の貝のような気持ちだ。
それよりも嬉しい気持ちだ、
愛する人が来てくれたから。

私のお祝いの席は絹と綿に
紫染めのヴェア模様がいい。
模様を掘るなら鳩と柘榴と
百の瞳を広げた孔雀がいい。
細工は金銀の葉付き葡萄と
銀の菖蒲の花の紋章がいい。
私の命の誕生日が来たから
愛する人が来てくれたから。

Christina Rossetti, "A Birthday"

in Goblin Market (1862).