2018/12/03

2018年に読む英詩 T・パーネル「死についての夜想」(没後300年)

【記事について】
メモリアル・イヤーの詩人の英詩の翻訳。
詩人はパブリック・ドメインの範囲から選ぶ。
今回は没後300年のパーネル。

【詩人について】
トマス・パーネル
(Thomas Parnell, 1679-1718)
・アイルランドのダブリンで商人の長男として生まれる。
・十代の頃に大聖堂の仕事を手伝う。
 職場にJ・スウィフトがおり、生涯の友人となる。
・二十代で幸せな結婚をするも、妻はすぐ亡くなり、
 その悲しみに暮れていた期間に「夜想」が生まれる。
・その後はロンドンによく通うようになり、
 J・アディソンR・スティールとも親交を結び、
 『ザ・スペクテイター』の仕事も手伝っている。
・没後、A・ポープが1722年が詩集を編纂している。
 「夜想」の初出もおそらくこの詩集。
「墓場詩人」(graveyard poets)の先駆とされる。

墓場詩人/墓場派について
(Graveyard poets/school)
埋葬や死別のイメージを喚起することに長けた詩人。
 厳密には1840-1850年代の詩人たちの作品を考える。
 (R・ブレア、E・ヤング、T・グレイなど。)
 肉体の崩壊の描写や人生の儚さの指摘を用いる。
 ロマン派の崇高美学やホラー趣味の先駆ともされる。
・パーネルも墓場詩人とされることが珍しくない。
 (時期が早いので最初の墓場詩人と言われる。)
 プライベートな事情から生まれた詩みたいなので、
 墓場「派」schoolと呼ばれると何だか変な気もする。


【翻訳】
死についての夜想
(A night-piece of death)

火を揺らめかせる青い蝋燭の傍らで
目の冴える夜を費やすのは止めよう。
私は終わりの見えない目標を立てて
学者や賢人の言葉に読み耽っていた。
彼らの書物は知恵から離れていくか
せいぜい一番遠い道を指すかなのだ。
私は別の近道を探し、降りていこう
知恵を確実に教えてもらえる場所へ。

彼方の空を染めている藍色の深さよ!
そこでは金色の天体が無数に広がり、
銀色に着飾ったその仲間たちの間を
三日月が低く滑っていくのが見える。
そよ風は呼吸を忘れたように微睡み、
滑らかに澄み渡る湖の水面を見れば
金銀で飾られた見覚えのある情景が
私たちの瞳を訪ねて下へ降りている。
右手の方で寝息を立てている庭園は
暗がりに身を引いて視界に入らない。
左手の方には墓地が姿を見せており、
水が音もなくその壁際を洗っている。
教会の塔は君の頼りない視力を招く、
鉛色に浮かび上がる夜の灯りの間へ。
憂鬱な気持ちで通り抜けてみたまえ、
宿命が積み上げた厳粛な景色の中を。
そして考えたまえ、悲しげにそっと
古く厳かな死者たちの上を歩みつつ、
彼らにも命のある時があったように
お前にも眠る時が訪れるだろう、と。

匿名の墓は曲がった柳の枝に縛られ、
ぼろぼろになった地面をうねらせて
垣間見る者の心に素早く解き明かす
苦労と貧しさがどこに落ち着くかを。

氏名付きの平らに研磨された墓石は
鑿の心許ない助力にその名声を託す。
(朽ちる友人たちに何を用意しても
人々の頻繁な往来が擦り消すだろう)
死にゆく者たちの中間層に入る人は
半数が野心家であり、全員が無名だ。

大理石製の背の高い墓たちとなると
死者は穹窿付きの小部屋に横たわる。
その支柱を埋めているのは石の彫刻、
武具、天使、墓碑銘の詩、骨であり、
要するに(どれも威厳の残り滓だが)
富者を装飾し偉人を賛美するものだ。
飾り物たちが地上で名声を博しても
飾られた当人は名声を感じられない。

何と!眺めるうちに青白い月は隠れ、
割れた地面が冥土の中を晒している!
白布を巻いた鈍くて青ざめた人々が
みな起き上がって幻影の群れとなり、
醒めた言葉で揃って叫びかけてくる。
「死すべき者よ、死の意味を考えよ」

今、黒い実をつけた告別のイチイが
雫で納骨堂を洗い清めている方から、
私の気のせいか、声が聞こえてくる。
(大鴉よ、ひび割れた大声を出すな、
鐘の鳴る時計よ、時刻を轟かせるな、
この広がる湖と真夜中の大地の前で)
そこから虚ろな呻き声が鳴り響いて
遺骨の隙間から語りかけてきている。

人間は私の大鎌と投げ矢の糧となる。
私は全ての恐怖にも勝る大王なのだ!
人間には私が物事の終わりに見える。
私の毒牙を作った当人が恐れるのだ。
愚か者め!恐怖を昂ぶらせなければ
私の異形の姿も見ずに済んだものを。
死への道は歩まれなければならない、
人間が神の許へ参じたいのであれば、
平穏の港、平安の国へと入ることで
迫る海の猛威を逃れたいのであれば。

それなのに、お前たちの垂れた黒衣、
深く垂れ下がった糸杉、追悼用の轅、
お前たちの衣装を横切る緩んだ肩帯、
棺の覆い、進む霊柩馬車、正装の馬、
前へ進むたびに死者の盾の上で肯く
黒い羽飾りはどういうつもりなのか。

ばらばらになった肉体には分からず、
魂には要らない悲哀の形ではないか。
小部屋を仄かに照らすランプと共に
監獄の中で長く暮らしてきた人なら
その苦しい年月が過ぎ去った暁には
輝く太陽を拝もうと飛び出していく。
遥かに超越した感触だが似た喜びを
ここを発つ敬虔な魂も覚えるだろう。
大地の上、そして肉体の中に置かれ
僅かだが辛い年月を徒に過ごす魂は
その鎖を解いてもらえる時になれば
限りなく広い喜びの情景を目にして
喜びの翼をはためかせて高みへ去り
昼を照らすあの炎と混じり合うのだ。

Poems on several occasions,
edited by Alexander Pope, London, 1726,
pp. 151-156.