【記事について】
・21世紀に書かれたクラシック音楽を紹介していく。
・今回紹介するのはホーズの『大戦交響曲』。
【作曲家の概要】
◯パトリック・ホーズ
(Patrick Hawes, 1958-)
・美しい旋律と平明な和声を得意としている。
どこまで行っても平明なので物足りない人もいるかも。
最近のCDだと『啓示』『幸福』が割と良かったかな。
・次の二つの小品は録音が複数ある。人気作品かも。
1.『よろこびとさかえに満つ』(Quanta Qualia)
2.『反映』(Reflexionem)
・Classic FMレーベルとは前から縁があるみたい。
・第一次大戦開戦100年の時も複数の作品を書いている。
【作品の概要】
◯『大戦交響曲』
(The Great War Symphony, 2018年)
・第一次世界大戦終戦100年に寄せた合唱交響曲。
伝統的な交響曲の形式に沿った4楽章構成だけれど、
実際は5分未満の断章が26個数珠繋ぎになっている。
合唱や独唱に管弦楽の伴奏がつくという形が中心で、
各断章の歌詞は当時の詩人や聖書から取られている。
全体の長さは60分くらい。
【作品の構成】
・基本の調性はホ長調。
冒頭に登場するビッグ・ベンの鐘に合わせたらしい。
・独唱の役割
テノール:戦争の現実を経験していく兵士たち。
ソプラノ:様々な仕方で戦争に傷つけられる女性たち。
・各楽章は一次大戦の時系列に対応して展開する。
第一楽章「前奏曲 1914-1915」
主題は開戦当初の楽観ムードと過酷な現実の到来。
前半は兵士を送り出す明るい賛歌などが続き、
最後に調性が変わって兵士の失意の叫びが来る。
第二楽章「行進曲 1915-1916」
主題は本格化していく戦争。ソプラノが登場する。
第三楽章「哀歌 1916-1917」
喪失の経験に捧げられた静かな断章が続く。
第四楽章「フィナーレ 1917-1918」
「怒りの日」に始まり、終戦を求める声が続く。
後半部は追悼のための音楽になっている。
【感想】
・聴き心地の良い旋律と和声はさすがホーズという感じ。
ただ、管弦楽が背景に引っ込みがちなのが惜しい。
拍子や和声を与えるだけの伴奏になりがちで、
劇的に鳴る場面や歌唱と絡む場面が少ないと思う。
この辺はカール・ジェンキンスとかにも通じるのかな。
・全体的に重くない歌が多く、戦争との距離感がある。
暗い場面の引き締めがあまり印象に残っていない。
メモリアルらしいといえばそうかもしれないけれど、
欧州全体を抉った悲惨を描くには軽い気もする…。
これはホーズらしい作風でもあるので評価が難しい。
「怒りの日」などがもっと凄まじければ違ったかも。
・演奏はソプラノの広がりのある歌唱がとても良かった。
合唱や管弦も粒が揃っていたので丁寧な出来だと思う。
・多種多様なテキストを使っているのは本当に良い。
過去の表象にぐっと近づくような効果があると思う。
・戦争という主題で大規模作品を書くのは大変だろうし、
ブリテンのような先例が国内にいるなら尚更だ。
今年の終戦記念は他の作曲家も書いてるのかなぁ。