・ここ10年くらいに書かれたクラシック音楽の記事。
CD、DVD、生演奏の備忘録も兼ねてます。
◯今日の作品
・リチャード・ブラックフォード(英、1954-)
『ニオベ』(Niobe, 2017年)
初演:2017年11月11日
タムシン・ワリー=コーエン(ヴァイオリン)
チェコ・フィル(ベン・ジャーノン指揮)
CD情報:Signum Classics (SIGCD539, 2018年)
CD版の演奏メンバーは初演時と同じ。
◯作品の概要
・チェコ・フィルの委嘱作品。
独奏者ワリー=コーエン(1986-)のために書かれた。
ワリー=コーエンはロンドン出身のヴァイオリニスト。
・作品のテーマはギリシア神話のニオベの物語。
ニオベ神話は、神を冒涜して復讐を受けた母の物語だ。
ニオベはテーバイの女王で、十四人の子供を持つ。
彼女は子供の多さを誇り、女神レートーを冒涜する。
女神の子供はアポロンとアルテミスだけだったからだ。
母親を冒涜された二人は、ニオベに復讐の弓を向ける。
矢の雨が降り、ニオベの子供たちは次々に落命した。
ニオベは「末子だけは」と嘆願するも、手遅れだった。
確かに神話世界の嘆願は神の心も動かす非常手段だ。
しかし、嘆願の瞬間には既に矢が放たれていたのだ。
子供たちの死に絶望した国王もその場で息絶える。
全てを失ったニオベは動けなくなり、岩に姿を変えた。
彼女は物言わぬ岩になっても涙を流し続けたという。
凄い話だ…。
by アンドレア・カマッセイ(1602-1649)
◯作品の構成(約22分)
・楽器編成
編成は独奏ヴァイオリンと管弦楽。
独奏とオケが対話する協奏曲の編成になっている。
基本的に独奏ヴァイオリンがニオベを演じている。
・四部構成(表題付き)
ソナタ風の四楽章でニオベの四つの姿が描かれる。
ニオベの動機の展開で全楽章の統一が図られている。
CDの解説には親切にも動機の展開が図示されている。
第一楽章「ニオベの愛欲」(Niobe The Lover)
ニオベの官能を伝える楽章だが、始まりは不穏。
独奏の導入部でニオベの動機が提示される。
管弦は国王であり、独奏と対話は情交を表現する。
二人の果てた後に、再びニオベの動機が示される。
第二楽章「ニオベの冒涜」(Niobe The Blasphemer)
管弦によって女神レートーの主題が示される。
独奏が管弦の主題を模倣し、ニオベは女神を装う。
私こそ崇拝に相応しいという冒涜の瞬間が訪れる。
その後、低音が不穏に残る。
第三楽章「ニオベの嘆願」(Niobe The Pleader)
アポロンとアルテミスによる殺戮が始まる。
管弦が迫り、パーカッションが死の足音を鳴らす。
管弦は独奏を追跡し、骸の山を作り上げていく。
国王の心臓は絶望に破れ、ニオベは全てを失う。
第四楽章「ニオベの哀悼」(Niobe The Mourner)
凄惨な光景が広がり、ニオベは長い哀歌を歌う。
突如、管弦がニオベに襲い掛かってくる。
苦しみ悶える独奏は岩に作り変えられてしまう。
◯グラモフォンによる短いインタビュー動画。
◯雑感
・音楽の展開もわかりやすく、CDの解説も丁寧だった。
小規模協奏曲としてとても良くまとまっている。
独奏も映えるし、王道を行く標題音楽という感じ。
ホールに響かせると化けそうなので演奏会で聴きたい。
・管弦にも役柄があるため、テンポを保つ伴奏はない。
「協奏曲」というよりも「協奏劇」という感じ。
その辺、古典派やロマン派とも比べて聴きたいなぁ。
「ニオベもの」はどのくらい書かれているんだろうか。
・ブラックフォードは今のイギリスで一番の推し作曲家。
構成がきっちりしていて、旋律線もよく歌う曲が多い。
今度は協奏曲か『野生のオーケストラ』で書きたい。
日本で生演奏を聴ける日が待ち遠しいなぁ。