2018/10/03

クラシック最前線 21世紀の新曲たち No. 1 ジョビー・タルボット『水流の調和』(2009年)

◯記事について
・ここ10年くらいに書かれたクラシック音楽の記事。
 CD、DVD、生演奏の備忘録も兼ねてます。

◯今日の作品
・ジョビー・タルボット(英、1971-)
 『水流の調和』(Tide Harmonic, 2009)
 CD情報:Signum Classics(SIGCD260, 2011年)
 

◯作品の概要
・元々はカールソンの現代舞踊『水流』(Eau)の音楽。
 ※キャロリン・カールソン(1943-)
  フランスで「視覚の詩」を追及中の現代舞踏家。
・カールソンの公演後、この曲は演奏会用に編曲された。
 そこから再び舞踊が重ねられ、バレエ作品となった。
 バレエ版を作ったのは同年代の振付師ウィールドン。
 ※クリストファー・ウィールドン(1973-)。
  2011年にもタルボットと組んでいるバレエ振付師。
・作品の主題は水の物理的な世界(性質や運動、組織)。
 基本は単純な音形を反復するミニマリズム。
 表題に沿った情景描写や和声は平明で聴きやすい。
 題名の「調和」が聴覚の話か科学の話かは不明。

◯作品の構成(約70分)
・楽器編成(弦楽と打楽器)
 ・擦弦楽器(Vr / Va / Vc / Cb)
 ・打鍵楽器:ハーモニウム、チェレスタ、ピアノ
 ・その他:パーカッション、ハープ
・五部構成
 第1部「露点」(Dew Point)
  露点とは、水蒸気が水滴へ凝結する温度のこと。
  擦弦楽器が迫ってくるのは冒頭だけで、後は。
  水の雫の滴りや流れを思わせる音の粒に耳を澄ます。
  終盤は擦弦楽器と打楽器が重なって景色が広がる。
 第2部「超深海帯」(Hadal Zone)
  超深海帯とは、V字に沈んだ海底の最深部のこと。
  前の部とは異なり、細かなリズムを打つ楽器はない。
  深海のイメージに合う拍節のない静かな世界。
  終盤は海面かどこかに向かうかのように盛り上がる。
 第3部「高潮」(Storm Surge)
  高潮とは、風の力で起こされる津波のこと。
  打楽器や打鍵楽器のうねりが海の荒れる様子を表す。
  とはいえ、響きが綺麗で規則的なので恐怖感はない。
 第4部「水の華」(Algal Bloom)
  水の華とは、密集した藻類が海面に作る模様のこと。
  最初は静かで、どうやら大量発生の前らしい。
  途中から音の粒が挿入され、増殖していく。
  響きが激しくなり、光景もマクロなものに変わる。
  ただし最後はまた静かな海に還っていく。
 第5部「合流」(Confluence)
  クライマックスというよりはエンディング・テーマ。
  水の旅を俯瞰するようにのびのびと歌って終わる。

◯パシフィック・ノースウェスト・バレエ団のダンス
・ヴェール国際ダンス・フェスティバルの動画。
 投稿者:ヴェール・ヴァレー財団。
 
 水として踊るのは難しいと思うけれど、工夫も感じる。

◯雑感
・現時点ではジョビー・タルボットの推し曲の一つ。
 CDを聞いた僕の友人たちからも割と好評だった。
 魅力は何といっても聴きやすさ。
 平明な和声+ミニマリズム+標題音楽の三拍子。
 裏を返せば、音のドラマの密度がどうしても薄くなる。
 やっぱりダンスが付いた方が良いかな、と思う。
・日本で『水流の調和』のバレエ上演は難しいかも。
 集客は「水を踊りで見る」という体験のプロモ次第か。
 初演は「音を見る」というシリーズの一部だったとか。 
 美術や他の芸術と柔軟にコラボしたら面白くなりそう。
・水というエレメントに魅せられた作曲家は多い。
 一番人気は魔術師ラヴェルの『水の戯れ』かなぁ。
 『水流の調和』をこの文脈で聴くのも面白いかも。
・タルボットは『不思議の国のアリス』が日本に来た。
 今年の11月には日本の劇団員による初の上演もある。
 チケットが取れなかったが、DVDは一応買っている。
 それを観たらまたレビューしてみたい。