2017/06/03

シェイクスピア『ソネット集』 第130歌

僕の恋人の瞳は全く太陽に似ていない。
彼女の唇よりも珊瑚の方が遥かに赤い。
雪が白い色なら彼女の胸は焦げ茶色だ。
髪が弦だとしても彼女の頭の弦は黒い。

紅白で織った薔薇は見たことがあるが
そういう薔薇も彼女の頬には伺えない。
香水の中でも心地よいものと比べると
僕の恋人の芳しい吐息も負けてしまう。

彼女の話に耳を傾けるのは大好きだが
それよりも響きの心地よい音楽もある。
女神の到来を見たことは確かにないが
地面を踏み鳴らして歩く恋人は見えた。

しかし天に誓って僕の愛する人は貴い
偽物の比喩にまみれた女性たちよりも。