2017/05/10

シェイクスピア『ソネット集』 第86歌

あの詩人の力作が見事な帆を膨らませ
尊い君を拿捕しに行くのを見たせいか
僕の熟した気持ちが僕の頭を棺にして
自分を育てた腹を自分の墓にしたのは?

あの詩人の才気が霊感に文筆を教わり
人を超えた声色で僕を打ち殺したのか?
いや、彼でもそのお仲間でもないのだ
夜闇に彼を助けて僕の詩を砕いたのは。

あの詩人と仲良しの親切な幽霊たちが
その知識で夜な夜な彼を惑わそうとも
彼は僕の沈黙を誇る勝者にはなれない。
僕はそんなことを恐れて悩みはしない。

だが彼の文字列を君が満たすとなると
僕の題材は無くなり、詩は衰えていく。